ソフトバンクモバイルに巻き返しの秘策はあるか『Foresight』Part1

「ワンセグ携帯では905SHが三ヶ月連続でナンバーワン機種」
「全ての携帯機器の八月販売実績で705SHが一位。ボーダフォン創業以来、初の快挙です」

九月二十八日、東京・ホテルオークラの「平安の間」に数百人の報道陣を集め、ボーダフォン(十月一日にソフトバンクモバイルに社名変更)の新機種発表会見に臨んだ孫正義は、買収後の「躍進」を、自信に満ちた表情で自賛した。

しかし、孫の言葉とは裏腹に、アナリストは「巨額の有利子負債」や「高額すぎる買収」を酷評し、ソフトバンクの株価は低迷している。モバイル・ナンバー・ポータビリティ(MNP=同じ電話番号で携帯電話会社を替えられる制度)の実施を一ヵ月後に控え、わずか十六%のシェアを打開するため〝起死回生の秘策〟が出てくると思われた。二年前、新聞の全面広告で「いま声をあげなければ、この国の携帯電話料金はずっと高いままかもしれません」と主張していた孫は「〝大人のソフトバンク〟として、ユーザーの意見を聞きながら一歩一歩、詰めていきたい…」と繰り返し、「通話料の値下げ」に明確な回答を避けた。

「機種の販売実績が首位になったのは、他社と比べて機種の選択肢が少ないので、シャープ製の端末に人気が集中したからです。随分と都合の良い数字を並べたな、というのが率直な感想です」(他の携帯キャリア首脳)

一兆七千五百億円という日本で史上最高額の企業買収から六ヶ月間が経った。ソフトバンクモバイルは、この半年間、何をしていたのか--。

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「汐留のソフトバンク本社と併設するホテル『コンラッド東京』で、孫とスティーブ・ジョブス(アップル最高経営責任者)が会食していた…」

四月、「iPod携帯電話が、ソフトバンクから出る」という説が流布され、メディアは孫の〝次の一手〟を巡る派手な噂に右往左往していた。しかし、通信業界では、ソフトバンクの営業体制の強化が密かに注目されていた。それは、「榛葉淳」と「久木田修一」の二人が、それぞれ営業第二本部長と営業第三本部長に就くという人事である。

「榛葉は、ヤフーBBのロゴ付きの傘を持った女性による街頭キャンペーン、通称『パラソル部隊』を指揮した人物で、久木田は光通信の元専務。二人は、営業・マーケティングを統括する副社長の宮内謙の傘下に入り、販売店の営業戦略を立案するトロイカ体制を作った。ライバル二社は〝三人が何か仕掛けてくるに違いない〟と、危機感を募らせた」(携帯キャリア幹部)

タダ同然で携帯電話を売り、契約と引き換えに、販売店が携帯キャリアから巨額のインセンティブ(販売奨励金)を奪い取る--ネットバブル時代の光通信の営業手法は、厳しく糾弾された。しかし、その強引な営業でIDO(現au=KDDI傘下)が契約数を急増させた。その後、光通信代理店の〝残党〟たちが、ある時はマイラインの契約獲得の最前線で戦い、ある時はパラソル部隊を率いてモデムを無料で配ったことは、通信業界で知らぬ者はいない。

こうした「ドブ板営業」を辞さない光通信の元幹部に加え、孫は九月一日付で、米クアルコムの元上級副社長をつとめた松本徹三を副社長に招致する。これに震撼したのは、auである。

「松本さんは、収益を上げることにドライに徹することが出来る典型的な外資系の能吏。auは、クアルコムから『CDMA2000』という3G(第三世代)携帯電話の通信技術を提供されているので、松本さんはauの携帯端末戦略や石(半導体チップ)まで機密情報を知悉している。auは、試合直前にトレーナーを相手選手に引き抜かれたボクサーのようなものです」(通信業界幹部)

勝ち残るために手段を選ばない、孫らしい用兵だ。しかし、肝心の兵隊に〝異変が〟起きていた。


初出:ソフトバンクモバイルに巻き返しの秘策はあるか『Foresight』2006年11月号