それでも西川善文は辞任すべきか

結論を最初に言うと〝適任な次期社長〟がいれば、西川は辞任すべきである。

筆者はかんぽの宿は適正、適法にオリックスに売却される予定だったと考えている。これに意味不明な文句をつけて白紙に戻した鳩山邦夫とメディアの罪は重い。「不透明」という批判の大半は、事業譲渡と不動産売買の違いを学ぼうとしない、単なる「不勉強」に過ぎない。それでも辞任すべきと考えるのは、かんぽの宿問題以前に、そもそも西川は日本郵政のトップに立つ能力や器がない人間だからだ。

これまで西川について何度も記事を書いてきた。

西川善文と金融庁との最終決戦『週刊文春』2004年12月30日号
外資系投資銀行の虚像と実像(後編)『週刊新潮』2005年7月14日号
最強外資 ゴールドマン・サックスの本性『週刊文春』2006年9月21日号

こうした取材を通じた西川に対する評価は、非礼を承知で書けば「小者」である。

「外資の手先」のように報じているメディアもあるが、まったく間違っている。アメリカのアングロサクソン、中でもウォールストリートの中枢で働く特殊な連中は、日本人のことを同じ人間とは思っていない。ウォールストリートの白人に好かれる日本人は、「財布に札束を運んでくれる日本人」だけである。むろん、どれほど札束を貢いでも尊敬などしてくれない。せいぜい「役に立つ友人」どまりである。しかし「役に立つ友人」に昇格するには、英語が絶対条件だ。西川は英語が話せないから、友人になるのも不可能である。友人ですらない人間が「手先」になれるわけがない。冗談ではでなく、言葉やコミュニケーションは最も大切なのだ。例えば、日本メーカーの東南アジア工場で、有能な社員がどんなに出世しても、日本語が話せなければ経営者には抜擢されない。短期間の海外旅行で親しくなれるのは、せいぜい日本語を話せるガイドぐらいだ。コミュニケーションがとれなければ、手先にもスパイにも小間使いにすら使えないのだ。

2002年に、GS会長のヘンリー・ポールソンが、西川とともに金融担当大臣の竹中平蔵と会合した。そして、GSの三井住友銀行への1500億円増資が決定した件も「西川が小者」だと証明している。当時の取材では、当初はGS日本法人社長の持田昌典と西川の二人の信用で増資を実行しようとした。ところが、ニューヨークのGSでは西川のことなどまったく評価していない。名前すらほとんど知られていない。ポールソンにとって持田は、「財布に金を運んでくれる便利な日本人」だが、西川は何者でもない。そこで、ポールソンが竹中と会い、何らかの「お墨付き」をもらうという儀式が不可欠だった。それがなければ、GSのマネジメント・コミティ(経営委員会)から増資にOKが出なかったのだ。その後の3000億円の追加増資では、西川はポールソンにテレビ会議で恫喝される始末だ。西川の外資人脈は、ほぼゼロに近い。

そして、過去の記事でも書いた通り、西川は極めて独裁的な恐怖政治を敷いて組織を統治しようとする。その怒りっぽい性格は常軌を逸している。実際、筆者も西川の自宅前で延々と怒鳴られたことがある。しかも、その言葉遣いは尋常ではない。質問をすると「うるせぇ!」「知るかぁ!」・・・。巻き舌で大声を張りあげる。まるでチンピラヤクザである。西川個人の性格もあるだろうが、遠因には旧住友銀行が培ってきたカルチャーがあると思う。筆者の知る限り、このような暴力的な言葉遣いで相手を威圧しようとする元住銀幹部は少なくない。楽天副社長の国重惇史、野中ともよと対立して副社長を退任した三洋電機の古瀬洋一郎なども同じだ。普段は「気さくな親父さん」だが、ちょっとしたことで頭に血が上り、突如として罵詈雑言を浴びせかける。かつての住友銀行では、このような幼稚で旧態依然とした企業統治をして、出世するためには大声で自己主張しなければならなかったのだろう。「天皇」「独裁者」などと言われた銀行経営者は少なくないが、住友銀行ほど汚い言葉を使う銀行を他に知らない。筆者には、西川も国重も「愚者」にしか見えなかった。(国重はその場で筆者に謝罪した)

そして、西川の姿勢を問題視したのが、合併後の三井住友の旧さくら銀行の行員たちだった。この件についても何度か記事で指摘しており、金融庁も注意をしている。しかし、西川はまったく反省をせず、郵政でも似たような態度で組織を作っている。これまで、社内に溜まりに溜まっていた不満や鬱憤が、表に出始めている。これは、民間の手法に慣れない世間知らずの総務省の官僚や郵政の社員が、反旗を翻しているというレベルではない。西川の手法が社員に恐慌を引き起こしたに等しい。なぜ、小泉と竹中は、こんな人物を日本郵政のトップに据えたのだろう。彼らは、テレビを巧妙に利用する術を知っていた。全銀協会長という肩書でテレビのニュースショーで堂々と受け答えする西川を「大物」と勘違いしたのだろうか。しかし、部下を悪し様に怒鳴りつけ、プライドを傷つけ、辱めるような上司は、組織のトップに立つ資格はない。そもそも人間としても間違っていると言わざるを得ない。

結果論かも知れないが、本来、かんぽの宿問題が大きく報じられた時点で、西川が記者会見を開き、新聞だけでなく週刊誌やワイドショーの記者も入れて、彼らが理解できるまで何時間でも徹底的にレクチャーし、郵政のウェブサイトに分かりやすいリリースを掲載すれば、ここまで事態が拗れることはなかったのではないか。なぜ、株主である国民に対して、物分かりが悪い部下を怒鳴りつけるような態度ではなく、「うるせぇ!」「知るか!」などと癇癪を起こさず、噛んで含んで説明しようとしなかったのか。西川のとった行動は、怒っている上司(鳩山)の気を鎮めるために謝罪しようなどという、実に住友銀行的な旧態依然たる行動だった。結局、いつまでも誰かの影に怯える「小者」だったのだ。

西川の首を切るのは簡単だ。だが、果たして次のトップに座りたがる民間人の経営者がいるだろうか。日本郵政社長の給料は3000万円程度だ。リスクばかりでアップサイドがない仕事に就こうとする有能な経営者など存在するはずがない・・・。