「頭取の首」竹中vs.UFJ攻防戦『文藝春秋』Part4

実は、五味は検査局長時代に、自分の思い通りにならずに「禍根」となった銀行があったと言われている。それは、大和銀行(後のりそな銀行)、足利銀行、そしてUFJ銀行の三行だという。五味が検査局長をしていた時は、柳沢伯夫金融担当大臣-森昭治金融庁長官-高木祥吉監督局長の時代で、かつての「銀行馴れ合い行政」に逆戻りしていた。

「当時の検査で、大和、足利、UFJに引当金が足りないことは明白でした。大口融資先への金融支援でも、平気で債権放棄などの先延ばしを許してしまった。しかも、森金融庁長官自らが旗振りをして大和銀行とあさひ銀行を合併させて、りそな銀行を誕生させる始末。こうした甘い姿勢に、現場を知る五味さんは、忸怩たる思いがあったはずです。その後、りそなや足利が破綻したときには、あまりのショックで持病の痛風の発作が出たという伝説まである。一説には、UFJは過去の検査でも大口融資先絡みの資料を隠していたことがあって、五味さんの逆鱗に触れた事があるのです。五味さんにとっては、『何とかしたい銀行』の筆頭だと思います」(前出・金融担当記者)

その裁量行政の復古も長くは続かなかった。一昨年九月、「公的資金再注入も辞さない」という姿勢の竹中平蔵が金融担当大臣に就任する。五味にとって、厳格な査定という数年来の構想を実現するは願ってもない人物が大臣になった。こうして、UFJに「五味一派」でもっとも査定が厳しい男・目黒謙一が派遣されたというのだ。

さらに竹中の眼前にも、来年四月のペイオフ実施(普通預金が全額保護されなくなる)という時限装置が迫っている。これに向けて、小泉政権は、昨年十一月の衆議院選挙の際に、二〇〇四年度末までに主要銀行の不良債権比率を半減させると公約している。

「雇われ大臣」は、唯一の理解者である小泉首相の信任をさらに厚くするために、選挙前のパフォーマンスに一役買って出なければならない。図らずも形成された五味局長とのパイプを最大限に活用して、「メガバンクも例外ではない」という姿勢を示すことで、小泉改革や選挙公約が実現しているとアピールしようと考えたのではないか。

「UFJ処理」のタイムスケジュールで最終的なデッドラインとなるのは、七月の参議院選挙だろう。それまでに、不良債権処理に道筋をつけ、健全行にも公的資金を注入できる「金融機能強化法案」の成立を待ち、UFJ後には〝選挙対策〟も含めて地方銀行の資本増強に乗り出すだろうと見られいてる。つまり「UFJ危機」の噴出には、政治的な思惑も絡んでくるのだ。

「実は金融庁からの情報リークは、金融庁中枢と親しい永田町筋を経由したものだという有力な説があります。竹中さんは不良債権の半減、金融庁幹部は検査での仇討ち、政治家は経済再生での発言力の強化と、それぞれの目的は微妙に異なるのですが、手段として『UFJをターゲットにする』という思惑が一致する」(金融担当記者)

しかし、彼らが明確なシナリオを描いているとは思えない。先の証券アナリストはこう見る。

「まず、預金保険法百二条三号で、足利銀行と同様に『破たん処理』をするにはUFJは巨大すぎる。株主責任を負わされるので、株価が急落して他行へと連鎖してしまう危険がある。そこで、りそな方式と同じ百二条の『一号措置』で、過小資本銀行への公的資金注入という選択肢もある。このために債務者区分を厳格化し、貸し倒れ引当金を増額させて、最後は繰り延べ税資産を圧縮させて自己資本八パーセント割れに追い込むというシナリオは想定しているでしょう。これなら、税金で自己資本を増強でき、減資せずに株主責任を負わないので、マーケットに与える影響も軽い」

だが、りそな銀行ですら公的資金の注入額は二兆円である。UFJへ一号措置で資本注入しようとすれば、その何倍もの金が必要である。そうなると、巨額の財政負担を強いられる。UFJにとっても財務省にとっても受け入れがたいシナリオだろう。一方、別のメガバンクかんぶの見方はこうである。

「劣後債の発行を延期させられたUFJは、検査忌避や一号措置をチラつかされて逃げ場を失っています。しかし果たして、小泉首相が選挙前に兆円単位の公的資金注入を決断できるのか。むしろ、経営健全化計画の未達成で二回目の業務改善命令を出し、一昨年、銀行協会会長として『反竹中』の急先鋒となった寺西頭取のクビをとることで、痛み分けで幕を下ろすのが関の山でしょう。ここまでプレッシャーをかけた後なら、UFJは金融当局の思い通りに動かざるをえません」(別のメガバンク幹部)

金融当局の動きも決して一枚岩ではなく、強硬派もいれば、いまだに従来の裁量行政、柔軟路線を支持する勢力もいる。しかし、竹中大臣が率いる金融庁とUFJとの暗闘は、たった二枚のメモによって修復不能にコジれていることが明白になった。

二月十七日、金融庁は再びUFJの特別検査に着手し、〝春の陣〟が始まった。その結果、「一号措置」が発令されるのか、それとも「頭取の首」だけで済むのか。金融界は戦々恐々としながら、成り行きを見守っている。

   ■       ■

竹中大臣は就任以来、銀行に「ビジョンを示せ、ガバナンスを確立しろ」と厳しく迫ってきた。しかし、金融庁自身にガバナンスやビジョンが存在していると言えるのだろうか。「検査忌避」疑惑の真偽すら明確にせず、信用不安だけが一人歩きする状態を放置する姿を見ると、金融当局には「壮大な陰謀」など存在せず、その場限りの感情や思い込みだけで動いているようにさえ見える。

一方のUFJも、金融当局との間で「内紛」「仇討ち」「密告」「リーク」といった低次元なバトルを繰り返したに過ぎない。金融危機を目の当たりにしても、「外資に食われるような増資が延期されて良かった」などと、相変わらず派閥抗争に躍起になっている幹部もいるという。これが二年前に鳴り物入りで再編したメガバンクの実態なのか。万が一UFJの経営が行き詰れば、税金によって救済、処理されるのだ。

北拓、山一の破綻に始まり、長銀、日債銀の国有化で危険水域を越えた日本の金融システムは、数十兆円もの公的資金の投入によって大再編され、メガバンクを誕生させた。しかし、その後も銀行の経営破綻は続き、いつ終わるとも知れない不況の中で、国民はもがき苦しみ続けている。

この国を金融危機の泥沼から救い出し、再び経済大国の地位を取り戻そうと真剣に取り組んでいる人間が、金融当局やメガバンクにどれほど存在しているのだろうか。


初出:「頭取の首」竹中vs.UFJ攻防戦『文藝春秋』2004年4月号

「頭取の首」竹中vs.UFJ攻防戦『文藝春秋』Part1
「頭取の首」竹中vs.UFJ攻防戦『文藝春秋』Part2
「頭取の首」竹中vs.UFJ攻防戦『文藝春秋』Part3
「頭取の首」竹中vs.UFJ攻防戦『文藝春秋』Part4


追記
この記事の発売後、寺西頭取は二期連続の赤字決算の責任をとって退任した。そして記事でも触れた、岡崎副頭取、早川常務、稲葉執行役員の三人が金融庁から銀行法違反で刑事告発され、執行猶予付の有罪判決を受けた。当時の金融危機下で、国策的に不良債権処理と引当金の積み増しを迫った金融当局の目的は理解できる。しかし、既に頭取が首を差し出しているにも関わらず、金融庁が三人の経営幹部を告発したのは、「やり過ぎ」だったように思う。この後、金融庁長官となった五味廣文は、損保会社、消費者金融などに業務改善命令を乱発する「暴君」のようになる。国家権力を官僚の〝人気取り〟に使ったように思えてならない。


金融庁のドン・五味廣文「異例の続投」の読み方 Part1『Foresight』
金融庁のドン・五味廣文「異例の続投」の読み方 Part2『Foresight』
金融庁のドン・五味廣文「異例の続投」の読み方 Part3『Foresight』