「頭取の首」竹中vs.UFJ攻防戦『文藝春秋』Part3

さらに、「UFJ危機」問題を複雑にしているのは、金融庁に「UFJの倉庫に隠蔽資料がある」と伝えた「内部告発者」の存在である。金融庁が、正確な内部情報に基づいて、ピンポイントで資料を「押収」したのは先に触れた通り。つまり、UFJ内部にこそ、この危機騒動の引き金を引いた人物がいることになる。

UFJ銀行は、その前身である旧三和銀行時代から熾烈な派閥争いを繰り返す銀行として知られていた。特に、バブル後の渡辺滉会長と佐伯尚孝頭取の確執は有名で、人事や株主総会の時期になると、決まって相手を攻撃する怪文書が乱れ飛んだ。この両者が揃って退任する相打ち人事の後、今度は、室町鐘緒頭取の下で、望月高世専務と杉山淳二常務とのバトルが激化するというありさまだった。

「UFJ発足の時、、望月、杉山のいずれかがトップに立つべきだった。ところが望月が体調を崩して退任し、派閥抗争の一方を残すわけにいかずに杉山もアプラス(系列の信販会社)の社長に追いやられた。MOFに強い望月と、企画に強い杉山が抱き合い心中で、椅子の方から勝手にやってきて頭取についたのが、今の寺西正司なんです。彼は、MOF担も経験してないし企画にも疎い。現場に判断を任せるしかないが、肝心のMOF担も適任者がいないので、手も足も出ない」(全国紙・金融庁担当デスク)

ある金融関係者は「UFJ銀行は韓国政府のようだ」と表現する。政権が変わるたびに、旧政権の権力者を根絶やしにすることで勢力基盤を築くところが、韓国の政権交代とそっくりだという。しかし、こんなことを繰り返していては、当然のように組織が疲弊する。

複数の関係者の証言によると、現在のUFJ内部にも、新たな派閥が生まれているという。寺西頭取を筆頭に、川西孝雄専務-中村正人常務のラインが「頭取派」。一方、岡崎和美副頭取の下に、早川潜常務-松本靖彦執行役員-稲葉誠之執行役員のラインが「副頭取派」と呼ばれる。次期頭取の有力候補は川西専務だが、岡崎ラインが巻き返しを狙って内部告発をしたとは考えられない。金融庁との交渉を担当する審査部門は、岡崎ラインの早川、稲葉の両執行役員が責任者である。返り血が大きすぎる。

そこで注目されているのが、頭取派にも、副頭取派にも属さない「第三の勢力」の存在である。UFJ内部では、旧東海銀行出身の行員たちが、不確定な浮動票を組織しているというのだ。

「合併直後から、旧三和銀行が『緑化推進委員会』なる運動を始めて、旧東海の幹部たちを放逐して、三和の企業カラーの『緑』にUFJを染めようとしていました。実際、持ち株会社のUFJホールディングスの杉原武社長を除いて、実力者は子会社や融資先に転籍させられてしまった。残る旧東海の幹部からは、『再分割してトヨタに買って欲しい』という声がでるほどです」(金融担当記者)

さらに、若手行員の一部からは、まったく派閥に属さない執行役員を推す声も出始めているという。

こうした複雑極まりないパワーパランスが内在するUFJ銀行から、金融庁に「内部告発」をしたグループは、どの勢力なのか。ある証券アナリストは、「内部告発をした人間は、金融庁とUFJとの間の『デッドライン』を知悉していた」と指摘する。

「金融庁の事務指針に『三割ルール』という規則がある。これは、公的資金を受けた金融機関が掲げた健全化計画の達成が三割未満になった場合、業務改善命令を発動できるというもの。三割未達が続くと、経営陣の交代や政府保有の優先株の普通株への転換(事実上の国有化)をするという厳しい内容です。昨年三月期で赤字だったUFJは、すでに一回目の業務改善命令を受けている。今年三月期で、再び利益計画などが未達になると、二度目の業務改善命令となり、経営陣の交代は免れません」

つまり、現経営陣を追い詰めるための内部告発である可能性が高いというのだ。

内部告発の背景を考えると、金融庁は、UFJの内部抗争に利用された形になる。しかし、多くの関係者は、金融庁には個人のぶつかり合いを超えた「何らかの意図」があるという見方をしている。そのキーマンとなるのが、監督局長の五味廣文である。東大法学部卒業で、大蔵省で主計畑のエリートコースを歩んできた五味は、金融監督庁(金融庁の前身)発足と同時に検査部長に就任。〇一年七月に、検査局長に就任し、現場の検査官の信頼も厚い。「五味一派」といわれる、先の目黒謙一検査官や河村健三統括検査官の検査は、いっそう厳しくなった。

「大蔵省から金融庁に転籍させられた職員の中には、『大蔵省時代に戻りたい』という気持ちが強い人が多い。ところが五味さんには、『俺は金融監督庁の一期生だ』という誇りがある。検査原理主義の方針は、目黒さんではなく、むしろ五味さんの意向が働いていると考えるべきです。監督局長になった今でも、五味さんが検査の方針を決定していると言ってもいい」(全国紙・金融担当記者)


初出:「頭取の首」竹中vs.UFJ攻防戦『文藝春秋』2004年4月号


「頭取の首」竹中vs.UFJ攻防戦『文藝春秋』Part1
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「頭取の首」竹中vs.UFJ攻防戦『文藝春秋』Part3
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