金融恐慌下で荒稼ぎするモラルなき金融マンの手口と実名『週刊朝日』Part3

川端の「行方不明」が話題になり始めた頃、モルガン・スタンレーが、日本のメガバンクに支援を求めていた。みずほには、モルスタのジョン・マックCEOからみずほコーポレート銀行の齋藤宏頭取に直接依頼があったと言われる。

「齋藤頭取、佐藤康博副頭取、高橋秀行執行役の旧興銀出身者が、モルスタへの出資に前向きだった。しかし、1月のメリルへの1000億円の出資で評価損を出したことに加え、齋藤頭取の『路上キス』が写真誌に出た問題などで旧興銀系の発言力が低下していたこともあって、旧富士銀系役員の反対で、出資が見送られた」(みずほ関係者)

一方、三菱UFJフィナンシャル・グループには、モルガン・スタンレー・ジャパンから「融資枠」が欲しいという申し入れがあった。複数の関係者によると、仲介役は、モルスタ日本法人の結城公平副会長と見られる。

「結城さんは三菱銀行の出身で、GSの持田昌典社長ほどの派手さはないが、多くのディールを手掛けたトップバンカーです。2001年のアイフルのライフ買収では日本初の事業の証券化を成功させた。もっとも、このディールでは100億円以上も儲けて、アイフルの福田佳孝社長を憤慨させたという逸話もあります」(モルスタ元幹部)

9月19日に申し入れがあり、その後、一週間足らずのデューディリジェンス(資産査定)で三菱UFJは9000億円もの出資を決めた。しかし、この拙速な決定が、混乱を招く。その後、モルスタの株価が急落して、「三菱UFJは出資を見送り、モルスタが破綻する」という観測が流れる。

ところが、世界中の投資家が「世界恐慌」に怯え、日経平均が、8000円台前半に突入した時、この「恐慌」をネタに、日米の巨大金融機関の「チキンレース」が行われていた。

三菱東京UFJ銀行の畔柳信雄会長と永易克典頭取は、10月9日からワシントンのIMF・世界銀行総会に出席する傍ら、世界中の株価が暴落するのを横目に、モルスタとの条件交渉を指揮していた。

「ここで、三菱UFJが手を引けばモルスタは破綻です。米政府が何もしなければ世界恐慌もある。結果的には、全てを優先株に変え、G7の行動計画の『重要な金融機関を破綻させない』という一文で言質を取り、『公的資金が注入されても議決権を持たない』など、完全に三菱UFJに平伏した格好になった」(外資系投資銀行幹部)

さらに、この出資には年利10%の優先配当権までついている。

「2002年に、GSが三井住友銀行に1500億円を出資する際、ヘンリー・ポールソンCEOと竹中平蔵経済財政担当大臣が会って、『三井住友は潰さない』という言質をとったと言われましたが、三菱UFJは同じことをやった」(外資系投資銀行幹部)

しかし、三菱UFJとモルスタとの戦略的な提携は、「失敗が目に見えている」という声が多い。

「三菱はインターナルポリティック(社内政治)に全身全霊をかけて、それが仕事だと思ってる。モルスタの人間は、収益至上主義でビジネスに時間を使いたいと思っている。『なんで組織作りを議論するんだ』となるでしょう。ワスプが支配するスノッブなモルスタの人間は言うことを聞かない」(三菱銀行OB)

三菱UFJ証券とモルスタ日本法人が統合してもシナジーは少ない。

「過去の実績から、モルスタの結城さんと三菱UFJ証券の中村昌義常務が共同CEOになるはず。しかし中村さんは、モルスタ内での出世争いに負けて二年前に三菱に転職した人。結城さんは、実の弟(結城太平)が三菱UFJ信託銀行の常務で、過去に手掛けたディールも、旧三菱銀行の転換社債や、東京銀行と三菱銀行の合併のアドバイザー、東京三菱の増資の主幹事など〝三菱ディール〟ばかりです」(モルスタ元幹部)

さらにモルスタは「火種」を抱えている。

「これまで日本のモルスタは不動産投資で儲けてきた。しかし、昨年4月に総額2813億円で13の全日空ホテルを買収したものの、その後の不動産の下落で数百億円目減りしていると言われています。また、銀行持ち株会社に変わったため、銀行法上、今までの不動産ビジネスは難しくなる。そもそも投資銀行というビジネスが縮小しているのに、三菱UFJは夢でも見てるのか・・・」(外資系投資銀行幹部)

この言葉通り、「巨大投資銀行」というビジネスモデルの破綻こそが、金融恐慌の本質だ。かつて日本で猛威をふるった外資系投資銀行、投資ファンドも失敗が顕在化している。

「米系投資ファンドのリップルウッドの投資先で、適正に経営再建が完了した企業はゼロに等しい。GSは、3年前に中堅ゼネコンのフジタに出資した。ところが、持田社長の〝腰巾着〟で、バンカー経験のない広報担当のマネージングディレクターの村山利栄を取締役に就けた。当然、フジタの経営は一向に改善せず、TOBで上場廃止せざるを得なくなった」(GSのOB)

投資銀行や商業銀行のバンカーからは、事業会社の経営を見通す力も、再建する力も失われている。そして、投資家に自己責任、融資先に個人保証を強いながら、自らが経営危機に陥ると、マーケットを人質に、当然のように公的資金という身代金を要求する。

資本市場を金融機関による支配から取り戻さない限り、バンカーの暴走に投資家や事業会社は泣かされ続けるだろう。


初出:金融恐慌下で荒稼ぎするモラルなき金融マンの手口と実名『週刊朝日』2008年10月31日号


金融恐慌下で荒稼ぎするモラルなき金融マンの手口と実名 『週刊朝日』Part1
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金融恐慌下で荒稼ぎするモラルなき金融マンの手口と実名『週刊朝日』Part3


追記:
2008年11月11日、BNPパリバの外部検討委員会が〝アーバンコーポ問題〟について最終答申を出した。公表された概要は以下のように厳しい内容だった。

「アーバン社は当初はスワップ部分を開示する意向を示していましたが、最終的には「非開示」とする姿勢に転じています。その経緯は明らかではありませんが、アーバン社の開示姿勢を察したBNPP 東京支店が非開示とするよう働きかけたことも一因となっていることが十分に推測されます。当委員会は、不適切な開示をアーバン社に働きかけたBNPP 東京支店の行為は顧客であるアーバン社への背信ともいうべく、一般投資家および市場を軽視した、極めて不適切な行為であったと判断しました。この点に関する担当幹部、経営幹部らの責任は免れないものと考えます」

「当該情報を知りながらヘッジ取引を行なっていたBNPP 東京支店の行為は、インサイダー取引に該当する可能性は否定できないと考えております。しかしながら、本件ヘッジ取引は、スワップ契約に基づいて機械的に行なわれていたものであり、実質的にみると法が本来予定している行為形態とは異なっている面があること、また、インサイダー取引の該当性については、当委員会は判断する立場にはないことから、その点の判断は控えさせていただきます」

「新たな部門の設置(資本市場ソリューション部)等に関しての対応が不十分であり、本件CB スワップ組合せ取引にかかる内部管理態勢が十分に機能していたとはいえないと判断しました」

外部検討委員会の最終答申受領のお知らせ
(BNPパリバ プレスリリース)

また、Bloombergによると、2009年1月に川端エリックの退社と資本市場ソリューション部門の廃止が決まったという。

仏BNPパリバ証券の川端エリック氏退社も-東京CMS部を閉鎖(3)
(Bloomberg)

アーバンコーポ問題について全国紙で最も積極的に追及した日本経済新聞は「外資系証券の虚実」として2009年1月8日、9日に川端を「K氏」として報道した。これまで、どちらかというとウォールストリート流の金融資本主義の主張に好意的だった日経が、こうした記事を書いたことに少々驚いた。日本証券業協会はBNPに10億円規模の過怠金を科すことになるとも報じられている。一般株主による損害賠償請求訴訟も提起され、アーバンは3月末までに多くの社員が解雇される予定だ。再建の道のりは険しいと言わざるを得ない。

三菱UFJのモルガン・スタンレーへの出資については、2009年1月1日の毎日新聞一面トップ記事「三菱UFJのモルガン出資決断 米政府異例の謝意」が圧倒的に詳しく、正しいと思われる。