金融恐慌下で荒稼ぎするモラルなき金融マンの手口と実名 『週刊朝日』Part1











「エリックが姿を消した・・・」

米系投資銀行のリーマン・ブラザーズが経営破綻した後、外資系投資銀行のバンカーたちの間で、一人の男の行方が、密かに話題にのぼっていた。

川端エリック憲司--。

この70年代の外人タレントのような名前の男の肩書きは、フランスの大手金融機関・BNPパリバ証券の「東京支店 資本市場ソリューション統括本部長 副支店長」である。外資には珍しい縦書きの名刺が、昨年夏以降、資金繰りが悪化した不動産会社の財務担当者と間で頻繁に交換されていた。

「身長は170センチに満たない小柄な体格で、色白で女性のように肌がプヨプヨしていた。インベストメントバンカーにしては、ガツガツしたところはなかった。日系アメリカ人なので、日本語は頭の中で翻訳してから話すようだった」(都内の不動産会社の財務担当者)

しかし、どこにでもいる「40歳代の日本人ビジネスマン」にしか見えない川端は、陰では「MSCB商人」「死のボンド屋」などと呼ばれていた。

「経営が悪化した企業に働きかけて、MSCB(下方修正条項付転換社債)を発行させて資金提供するのが主なビジネスだった。しかし、数ヶ月後に発行体の企業が経営破綻することも少なくないので、『BNPの死(倒産)の商人』と揶揄されていた」(外資系投資銀行幹部)

実は川端は、今年8月に2558億円の負債を抱えて民事再生法の適用を申請した東証一部上場の不動産デベロッパー「アーバンコーポレイション」が、破綻直前に発行した〝疑惑の転換社債〟を手掛けていたのだ。アーバンは、一部で「裏社会との関係」を報じられていた。このため「川端は消されのでは・・」という不穏な推測まで飛び交った。しかし、川端を知る不動産会社幹部はこう言う。

「アーバンの転換社債発行については、スワップ契約という〝密約〟を開示しなかったため、金融庁が調査に乗り出している。川端は、ほとぼりが醒めるまで、香港かシンガポールあたりに身を隠してるんでしょう。逃げ切れば、巨額のボーナスが手に入る。株式市場が崩壊しても、投資銀行やメガバンクの連中だけは、上手く儲けてますよ」

サブプライムローン危機に端を発した米国発の金融恐慌は、世界各国の資本市場を底なしの暴落に落とし入れた。相場の混乱に乗じて、かつてエリートと持て囃されたバンカーが〝暴走〟している。

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「昨年秋から、金融庁は不動産関連の投融資の指導を急に厳しくした」(邦銀の審査担当者)

2004年から2006年にかけて、首都圏の不動産価格はバブル期並の急上昇を続けた。日本の金融機関は、不動産の証券化商品を買い漁り、新興の不動産デベロッパーが、次々と株式公開を果たしていた。

「金融庁は、サブプラ問題で米系ファンドの不動産投資が減り、邦銀に焦げ付きが発生することを恐れたんでしょう。次第に『反社会的勢力との関与が疑われる問題企業』として具体的な実名をあげて『融資を慎重に・・・』という指導も出始めた」(前出・審査担当者)

こうした「問題企業」の中に、スルガコーポレーション、グッドウィル・グループ、そしてアーバンコーポレイションなどがあったという。裏付けるように、アーバンの関係者が証言する。

「昨年11月から、みずほ銀行が回収に乗り出した。有担保で利払いも滞ってないのに、明確な理由も明かさない。今年に入ると、ほぼ全ての邦銀から借り換えも新規融資もストップしました。毎月の資金繰りが苦しくなり、止むを得ず保有物件を売却した。今年3月期に616億円の過去最高益になったのは、物件を手放したからです。結局、みずほからの昨年3月末の融資残高約90億円は、今年3月末にはキッチリ0円になりました」

みずほ銀行で、融資回収を指揮したのが、副頭取の小崎哲資だという。旧興銀出身の小崎は、2003年の「一兆円増資」の立役者で、予定通りに金を集められなかったメリルリンチの担当者に灰皿を投げつけた武勇伝でも知られる次期頭取の筆頭候補である。

そして、みずほの融資回収が完了した後、「アーバン潰し」は、金融界全体の動きに発展する。


初出:金融恐慌下で荒稼ぎするモラルなき金融マンの手口と実名『週刊朝日』2008年10月31日号


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