「政治家」竹中平蔵 本当の実力 (文藝春秋)Part3

「教授」になった竹中は、吹っ切れたようにマスコミに登場し始める。平成九年には、「東京財団」(当事は国際研究奨学財団)の理事に就任し、経営企画コンサルティング会社の「サイズリサーチセンター」を設立する。みずから実業界に働きかけ、現実的な政策提言が可能な集団を作り出そうとしたのは、象牙の塔から拒絶され続けた竹中にとって、むしろ当然の選択肢だったろう。

小渕内閣で「経済戦略会議」のメンバーに選ばれたのも、学会からの推挙ではなく、アサヒビールの樋口廣太郎名誉会長の紹介だった。経済戦略会議の座長は樋口氏だったが、実質的なリーダーは、中谷巌・一橋大学教授だった。戦略会議は、国家行政組織法第十八条によって設立されたもので、通常の審議会などとは違い、内閣に具体的な政策提言をすることが出来た。もっとも、メンバーに大企業トップが多かったこともあり、実質的な議論を深めるよりも、「ハリキリボーイの竹中」だけが浮いたような存在だったという。この頃の竹中を知るエコノミストは、こう解説する。

「戦略会議では、竹中さんは大物学者や財界人に囲まれた『ワン・オブ・ゼム』に過ぎませんでした。小渕総理の前で必死に自分の主張をしていましたが、取り上げてもらえなかった。彼は、アメリカの学者仲間が参加しているホワイトハウスの経済諮問委員会をイメージしていたようで、理想と違い過ぎたんでしょう。同じ一橋出身の中谷さんの役に立ちたいという気持ちも強かったようですが、結局、空回りしていました」

経営戦略会議が終わり、小泉政権までの二年間、IT戦略会議や森喜朗首相の私的勉強会などには出席していたが、その立場は単なるご意見番に過ぎず、竹中は、政策立案から遠ざかっていた。テレビのニュース番組にレギュラー出演し、経済雑誌に連載するなど、一見すると「タレント学者」として生きる道を選んだかに見えた。しかし、華やかなマスコミ出演の蔭では、彼が最も得意とするスポンサー探しに奔走し、政権中枢への復活を虎視眈々と狙っていた。

日本興業銀行の経営アドバイザー就任に始まり、フジタ未来経営研究所の理事長、アサヒビールの社外取締役など、まず矢継ぎ早に肩書きを手にした。さらに、同じ時期に東京中央区に「高層億ション」を購入し、マクドナルドの未公開株まで入手して億万長者の仲間入りを果たす。経済戦略会議をモジったような、『経済ってそういうことだったのか会議』(日本経済新聞社)までベストセラーになった。

だが、タレント活動は、あくまでも手段であり隠れ蓑に過ぎなかった。

竹中が「人脈と金」を培う舞台となったのは理事長をつとめる「東京財団」である。竹中が理事長に就任就任した「東京財団」は、「日本財団」(旧日本船舶振興会)の交付金で設立されたシンクタンクである。竹中は、基本財産が三百九十七億円と、金だけはケタ外れに持っている財団を足がかりに、本格的な「政策集団」を結成しようと目論む。

平成十年暮れに東京財団内に設けられた「インテレクチュアル・キャビネット政策会議」と名づけられたメンバーは、「総理」が香西泰・日本経済研究センター会長、「官房長官」が島田晴雄・慶応大学教授と竹中本人、「財政担当大臣」が本間正明・大阪大学教授と吉田和男・京都大学教授、「金融担当大臣」が池田和人・慶応大学教授と岩田一政・東京大学教授など、いわゆる「竹中シンパ」などと言われる名前も少なくない。

「これはシャドー・キャビネット(影の内閣)のようなもので、『竹中さんによる竹中さんのための政策会議』です。竹中さんから直接電話があって、『こんなテーマについて政策提言をして下さい』という誘いがある。日当も出るので参加すると、自民党の若手議員との交流会も一緒にセットされていたりする。竹中さんは、小泉政権発足後に『経済財政諮問会議』のメンバーになるわけですが、森政権の終わり頃から『次は小泉さんだ。小泉さんを応援したい』としきりに言ってましたし、竹中さんの紹介で、何人もの学者が小泉さんに会っているはずです」(参加者の一人)

構造改革、供給サイドの強化など、小渕政権の経済戦略会議では提言だけに終わった「竹中型レーガノミックス」の実現に向けて、竹中は小泉を必死に説得していたという。

シャドー・キャビネットのメンバーの一人である島田晴雄教授が言う。

「私も、平蔵の紹介で小泉さんとは会いました。平蔵は、小泉政権になった時の改革実現のために、多くのメンバーを小泉さんに会わせて理論武装をさせたかったんだと思います。ただ、まさか本人が経済財政担当大臣に就任するとは思ってなかったでしょう。小泉さんをその気にさせてしまうほど、平蔵が鼓舞したのかも知れません。決して悪い意味ではなく、平蔵は学者にしておくのはもったいないほど、政治に向いている男だと思います」

こうして、「学閥に属さない学者大臣」が誕生することになる。


初出:「政治家」竹中平蔵 本当の実力『文藝春秋』2003年11月号


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