これから問われる「M&A」アドバイザーの価値『Foresight』Part2

それでも、都銀の一行員に過ぎない佐山の手元に、巨額の成功報酬が入るわけではなかった。日本長期信用銀行、日債銀が国有化され、地銀が相次いで経営破綻する中で、佐山は銀行を退社する。四人のメンバーで投資ファンドの「ユニゾン・キャピタル」を設立し、東鳩、マインマート、キリウなどの買収を手掛け、〇四年に「GCA」の代表に就任した。

しかし、かついてディールの金額に応じて支払われていたM&Aのアドバイザーのフィーは、ダンピングが進み〝儲からない商売〟になっていた。ゴールドマン・サックス(GS)やモルガン・スタンレーは、自ら巨大なファンドを組成して企業や不動産への直接投資で巨額のリターンを稼ぎ出す時代に変っていた。なぜ、時代の流れに逆行して、投資ファンドを捨てて、M&Aのアドバイザーになったのか。

「ユニゾンは一号ファンドの投資を終える五年で辞める予定でした。とりあえず次の仕事として個人会社でアドバイザーの会社を作ったところ、思った以上にM&Aのマーケットが成長している。そして、私の目から見ると日本にはM&Aのプロが百人に一人いるかいないかで、『お金』ばかりを言っている。逆にお客さんのためのアドバイザーとなれば成功すると思った。設立当時から、『三年以内に上場を目指します』と明言していました」(佐山)

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GCAは、佐山の思惑通りに急成長し、メガディールを手掛けるのは外資、中規模ディールはGCAと国内証券、地方や中小企業系のディールは日本M&Aセンターと棲み分けも出来上がっている。GCAは〇五年のアパレルメーカー「ワールド」のMBO(経営陣による事業買収)や、阪急ホールディングスと阪神電鉄の経営統合など、億単位のフィーが得られるメガディールを手掛けるほどになった。

だが、佐山は、中規模ディール主体の地位では満足しなかったようだ。

「原宿のお姉ちゃんや、地方のお婆ちゃんに聞いても、『M&Aと言えばGCA』と言われるようにしたい。プレッシャーの中で『お金お金』と言いながら仕事をするのではなく、お客さんのためのアドバイスで日本一のM&Aファームを目指す」(佐山)

投資家が、佐山のこの言葉を信じて資金を投じた以上、株価に見合った業績を上げ続ける責任がある。GCAは外資と伍して戦い、メガディールを奪い、巨額のフィーを稼がなければならない。しかし、その戦いは決して楽では無いだろう。

外資系の投資銀行のバンカーたちは、本国からの強迫にも似たプレッシャーの中でメガディールを追い続けている。GSは「新卒入社二年目の社員の年収が二千万円を超える」という高額報酬で有能な人材を集めている。しかも、日本のM&A市場では乱暴なディールが横行している。ソフトバンクのボーダフォン買収は「高額すぎる」と批判され、カネボウや西武鉄道を買収した投資ファンドが、株主に損害を与えたとして告発・提訴された。投資家のM&Aに対する評価は厳しくなり、株主価値を毀損するディールに、退場勧告を出し始めている。

既に名前と顔が売れた佐山が、仮に一部の外資のような乱暴なディールを手掛ければ、格好の批判に晒されるだろう。

「外資は、手数料三億以下はやらず、年間七、八件だけという姿勢です。我々は、〇五年は八十件以上で、二十件がリピーター、〇六年の上半期の七十一件中二十七件がリピーターです。メガディールは外資とも競合しますが、彼らは看板は立派でも一回使って出入禁止になった例もある。外資は新しいお客さんを取るために、必死に営業をかけて走り続けなければならない。最後は、アドバイザーとしての力量の勝負になります」(佐山)

とはいえ、外資のバンカーは、GCAをライバル視していない。GCAは五百六十億円のメザニンファンドを組成してMBOなどでファイナンスをするというが、GSは一兆円を超える投資ファンドを組成する。UBS証券がアドバイザーになった日本板硝子の英ピルキントンの六千億円の買収は、ディールの成立までに三年以上の時間を費やした。GCAが、上場で得た資金で、海外のアドバイザリーファームと資本提携し、グローバルなネットワークを築き上げるには数年かかる。

M&Aのアドバイザーは、顧客にとって「道具」に過ぎない。日本の経営者が、投資銀行や投資ファンドの方針に翻弄されることなく、彼らを「利用」することを覚えれば、自ずとフィーはさらにダンピングに向かうだろう。

一九四〇年代の米国カリフォルニアのゴールドラッシュで最大の財を築いたのは、採掘労働者向けの「道具」であるジーンズを開発したリーバイス・シュトラウスだという伝説は広く知られている。GCAや日本M&Aセンターが、有益な「道具」であり続けられるか、それとも金塊を掘り当てに来た山師に過ぎない存在に終わるのか…。結末は数年後に明らかになる。

初出:これから問われる「M&Aアドバイザーの価値」『Foresight』2007年1月号


これから問われる「M&A」アドバイザーの価値『Foresight』Part1
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