これから問われる「M&A」アドバイザーの価値『Foresight』Part1


一九八七年九月、大阪市中ノ島の「大阪ロイヤルホテル」(現リーガロイヤルホテル)で、明星工業によるボイラー会社買収の調印式が行なわれた。巨額のM&A(企業の合併・買収)が日常化した今から見れば、わずか五億円のディールにも関わらず、プロのカメラマンを雇い、銀行首脳まで列席して調印式をしたのは、三井銀行(当時、現三井住友銀行)が立ち上げたM&Aチームによる第一号案件だったからだ。

このチームの中に、二カ月前に帝人から転職したばかりの佐山展生がいた。佐山は、京大工学部を卒業後、十一年間、愛媛県松山市の化学工場でポリマーの研究開発に携わっていたが、新聞広告をみて三井銀行の中途採用に応募して入行した。佐山がチームの一員になったのは、「ボイラー技師の資格を持っているなら、何かの役に立つだろう」という上司の単純な発想からだった。

「この時、買収がまとまらなければボイラー会社は倒産して、社員が職を失うところでした。従業員と一緒に、一カ月かけて事業計画や買収価格を策定したのです」(佐山)

もっとも、五億円のディールで三井銀行が手にしたフィー(手数料)は、わずか五百万円だった。当時、銀行は取引先への〝サービス〟としてM&Aのアドバイザーを無料で引き受けていたのだ。調印式の翌日、チームが挨拶に訪れると、明星の社長が、「君達、手数料はいらんのか?」と言い、社長の一存で五百万円という金額が決まった。

それから十九年。二〇〇六年十月六日、佐山が代表をつとめるM&Aアドバイザリーファームの「GCA」が東証マザーズに上場した。株価は公募価格の三倍の七六四〇〇〇(最高値)になり、時価総額は千三百八十億円にまで膨れ上がった。さらに四日後の十月十日には、同じM&Aコンサルティングの「日本M&Aセンター」も上場し、わずか十二営業日目で公募価格の二倍の二三二〇〇〇〇円の最高値をつけた。

GCAの時価総額は、東証一部の森永乳業を凌駕している。森永は、一九四九年設立で従業員は約三千人、売上は四千二百八十億円。GCAは、設立三年足らずで従業員約六十人、売上四十四億円に過ぎない。証券市場が、M&Aビジネスの将来性をいかに高く評価したかがわかるが、こんな声も挙がっている。

「まるでゴールドラッシュです。この株価は明らかなバブル。そもそもM&Aのアドバイザーの収入の柱はフィービジネスです。従業員であるバンカーや弁護士など専門家の人件費はフィーに応じて決まり、設備投資や研究開発費は必要ないはず」(メガバンク幹部)

一橋大学教授の肩書きでテレビに露出する佐山の〝真実の顔〟であるバンカーとしての二十年を振り返りながら、にわかに活況を呈してきた「M&Aアドバイザー」というビジネスを問い直す。

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明星のボイラー会社買収後、佐山は、三井銀行のM&Aチームで化学部門を担当し、三井東圧化学(現三井化学)による米国企業の買収などを手掛けた。バブル崩壊前夜の一九九〇年十月にニューヨークに転勤し、自費でニューヨーク大学のスターン校でMBAを取得。九六年一月に帰国すると、日本の金融機関は住宅金融専門会社など、不良債権の処理に追われていた。翌年四月に旧日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)系のノンバンク、クラウンリーシングの破綻処理で、佐山はインベストメントバンカーとして本格的にキャリアをスタートする。

「当時のM&Aは、大きくても百億円程度でした。ところがクラウンは、健全なリース営業の資産が約三千億円、海外の資産が約八百億円という規模ですから、管財人弁護士にアドバイザー就任を要請されても、一瞬たじろぎました。私がヘッドで六人のチームを作り、海外の資産をバンカーストラスト(現ドイツ銀行)へ、国内資産をオリックスに売却した。これまでの日本のM&Aでは個別に交渉していましたが、入札制度を採ることで短期間に買収を終わらせたのです」(佐山)

当時、管財人の下で数年かけて再建・整理するのが普通だった企業の倒産を、M&Aの手法を用いて、わずか二カ月で処理したばかりか、三井銀行は三十億円以上のフィーを稼ぎ出した。さらに、クラウンの不良債権処理も請け負い、後に多くの銀行が乗り出す「不良債権のバルクセール」の雛形を作った。

「九月中旬に処理を始めると、ある外資系バンカーが『我々が全部買うからエクスクルーシブ(独占交渉)でやろう』と言う。〝予選〟で三千億円の不良債権の一割を売却すると、案の定、買収を希望した十社中で二社しか全て買うとは言わなかった。独占交渉を持ちかけた外資も、『パチンコ屋が混じってる。そのスジが絡むかも知れないから本国の了解が取れない』と降りました。契約書は、瑕疵があっても買い戻しは無し、という強気なものを作って完全に処理したのです」(佐山)

初出:これから問われる「M&Aアドバイザーの価値」『Foresight』2007年1月号


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