外資が笑う「日興コーディアル事件」全真相『週刊新潮』Part3

先に触れた通り、ベル社がソフトバンクから500億円で買収したBBCは、実績の無い会社だった。敢えて、互いの利益のためにBBCという〝毒饅頭〟を作り、日興とベル社が喰らいついた格好である。解毒の方法は、「BBCを500億円の価値がある会社に変える」以外にない。

ところがBBCは、さらに「不可解」な会社に変質していったた。

まず、初年度の決算公告が存在しない。ベル社の広報担当者は、「会社の方針で何も公表できない」という。しかし、資本金五億円以上の会社は商法により損益計算書と貸借対照表の公告が義務付けられている。

「事業立ち上げで多忙で、失念しました。申し訳ありません」(ベル社広報グループの武智智子)

明らかな商法違反である。これが、五百億円もの価値がある企業と言えるだろうか。

翌年、BBCはようやく平成18年2月末の決算公告を出す。これによると、経常利益は約28億円に過ぎないが、特別利益が130億円もあるのだ。その一方、固定資産は30億円足らずである。この数字から推定されるのは、「BBCは保有資産を売却している」ということだ。さらに驚くのは、2年前の買収直前に資本金を51億円に増資したにも関わらず、昨年6月に資本金を1億円に減資し、資本準備金も49億円から4億円に減らしているのだ。

「ベル社は、ソフトバンクと包括的な提携をしたため、NTTやKDDIなどから大口の業務委託を減らされました。日興の持株1320億円分の自社株まで買い取らされて、BBCにまで手が回らないのでしょう」(通信会社首脳)

結局BBCは、500億円の価値を生み出すどころか、〝毒饅頭〟のまま放置されていたのではないか・・・。

今年1月末、日興CGは、外部の調査委員会による「調査報告書」を公表した。しかし、この文書のどこを読んでも、「なぜ不正会計をしたのか」が分からない。

そもそも投資会社であるNPIが、ベル社の株式を長期的に保有し続けるはずがない。そして、〝毒饅頭〟を喰った日興自身が、ベル社やBBCの前途を楽観していたとも思えない。既に見てきたとおり、BBCは初年度から会社として体をなしていないのだ。

「ベル社の株式は、いずれソフトバンクが買い取るはずだった。ところが、CSKの持株を高値で買ったため、相対で売ろうにも株価が上がり過ぎてしまった。その後、GEやAIGなどの外資系金融機関の名前もEIXT(売却)先として挙がったが、いずれも立ち消えになった」(別の日興幹部)

ソフトバンクの広報担当者は、「ベル社の株式取得を検討した事実すらない」と強く否定する。

ソフトバンクがベル社に出資する理由はない。すでに独占的排他的な契約を交わしており、業務の委託側として優位的な地位にあるからだ。

先の報告書の30ページに、日興が真っ先に検討したベル社株の処理方法が「即転方式」、つまり即時転売だった。ところが増資引受から1ヵ月後の9月には、すでにEB債の発行で利益を計上するなどの会計処理に手を出している。

「日興は、第三者への売却がCSK保有のベル社株の高値買い取り買収でご破算になったため、止むを得ず時間稼ぎのために不正会計に手を出した・・」

こう考えると辻褄が合うのではないか。しかし、日興からは、驚くべき答えが返ってきた。

「短期の転売を検討した事実はありません。(調査報告書の記述は)間違ってます」(日興CG広報部)

日興は、有村や平野などの不正会計に関わった元首脳に「犯意が認められない」という理由で告訴を見送っている。「転売できなかったから」と認めれば、「犯罪の動機」も明確になる。調査報告書を否定してまで、すでに退社した有村や平野に、未だに忠義を尽くす理由はどこにあるのか。

早稲田大学の上村達男法学部長はこう言う。

「ベル社の増資は明らかな支配目的であり、違法だと思います。裁判所はこうしたものを肯定し、違法だらけの攻撃に対する防衛としてのニッポン放送の新株予約権発行を否定するという具合に、いつも世論に迎合して間違った判断を繰り返し、ひどい資本市場を許してきました。全体のからくりを偽計取引とし、あるいは有価証券届出書虚偽記載による刑事罰もあり得るでしょう」

一連の取引の中で、目論見通りに日本テレコムの買収とコールセンターの確保に成功したソフトバンクと、まったくリスクを負わずに数十億円のフィーを獲得したGSが勝ち、日興とベル社は〝毒饅頭〟に冒されただけのように見える。プロ同士の取引である以上、「ソフトバンクに騙された」と言う冒頭の日興幹部は、残念ながら〝被害者〟ではなく〝敗者〟に過ぎない。

かつて四大証券の一角で権勢を誇った日興證券が外資の軍門に降る。しかし、上場廃止や刑事告訴を見送るようでは、日本の資本市場に規律を取り戻し、平気で株主価値を毀損する外資の蹂躙に歯止めをかけることはできないだろう。


「ソフトバンクにやられた」外資が笑う「日興コーディアルグループ」事件全真相 『週刊新潮』2007年3月22日号


外資が笑う「日興コーディアル事件」全真相『週刊新潮』Part1
外資が笑う「日興コーディアル事件」全真相『週刊新潮』Part2
外資が笑う「日興コーディアル事件」全真相『週刊新潮』Part3