外資が笑う「日興コーディアル事件」全真相『週刊新潮』 Part2

この日に決まった業務提携は、ベル社がソフトバンクの子会社のコールセンター会社「BBコール(BBC)」を500億円で買収し、592億円の設備投資をする。さらにヤフーBBや日本テレコムのコールセンター業務を一括してBBコールに委託するという内容だ。

当時の両社のニュースリリースには、BBCを「設立2000年8月29日、資本金51億円、事業内容コールセンター運営業務」と記されている。しかし、この記述は「巧妙な嘘」と言わざるを得ない。

BBCは、提携が決まった7月20日に、旧東京めたりっく通信の子会社で休眠状態になっていた「東京めたりっく販売」を社名変更し、同時に資本金を1億円から51億円に増資し、約款を「コールセンターの運営」を書き換えただけの会社だ。M&Aの実務に詳しい弁護士は次のように言う。

「売主、買主、そして仲介者の三者、さらに出資者元の日興を加えた全ての人間が、互いに『大人の事情』を理解したから出来上がったディールでしょう。しかし、上場企業が関わるM&Aとしては『スレスレ』と言わざるを得ない」

もっともソフトバンクは、大手の会計士事務所から、BBCの将来価値を算出したフェアネス・オピニオン・レター(第三者の意見書)もとっていた。

こうして、GSの巧妙な策略、ソフトバンクの周到な準備で、「ソフトバンクのコールセンターの充実と資金調達」「ベル社の巨額増資の理由付けとCSKの影響力を低下」という両者の思惑を同時に達成した。そしてCSKは地裁で敗北したのだ。

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この「スレスレのディール」に、1000億円を超えるキャッシュを投じて最大のリスクを負ったのが日興CGである。投資を主導したのが、日興CGの有村純一前社長から寵愛を受け、〝社長の座〟が確実視されていた日興プリンシパル・インベストメンツ(NPI)の平野博文前会長だった。

「平野さんは、ロンドン勤務時代に、シティとの業務提携の際の人員整理の手腕で評価されたように、ディールメーカーというより調整型の典型的なサラリーマンです。痩せ型の長身で英語も堪能ですが、1000万円ほどのディールでも、眉間に皺を寄せて悩んだと思ったら、『有村さんに聞かない』となる方でした」(メガバンク幹部)

一方の有村は、副社長時代から「日興を牛耳る男」と恐れられていた。50平米もの広大な社長室には、外資系投資銀行のようにオークウッドのソファセットが整い、オーディオセットからクラシック音楽を流しながら接客した。

「有村さんが副社長で、金子昌資社長だった時に、関連会社の増資の報告に行ったことがあります。他の役員から『有村さんに説明してくれ。金子社長は後でいいから』と言われた。実際、有村さんからは鋭い質問が30分ほど続きましたが、金子社長とは数分の雑談で終わりです。あらためて、この会社を仕切っているのは有村さんと実感しました」(日興グループ幹部)

外資系のバンカーのようなスタイルを好む有村は、自ら積極的に動き回る「ディールメーカー」で、その姿は意外なところで目撃されている。

ライブドアの元幹部で沖縄で自殺した野口英昭氏が参加していたことで知られるようになった「日本ベンチャー協議会」の会合にも出ていた。しかも、べル社の園山も同席だったのだ。ベル社への1000億円を超える投資を決断したのが有村本人であると考えて、間違いないのではないか。

地裁がベル社の増資にお墨付きを与えた直後、CSKの逆襲が始まる。有村を始めとした日興コーディアルの全役員宛てに、内容証明郵便が届いたのだ。差出人は、企業のコンプライアンスに詳しい弁護士の「久保利英明」だった。

「8月1日から立て続けに3、4通来ました。久保利さんはCSKの顧問弁護士です。『支配権目的の増資であることは明らかだ』『議決権行使の禁止で徹底的に戦う』『10年の裁判闘争も辞さない』『業務上横領の可能性がある』と、有名弁護士からの辛らつな文言に経営トップも驚いたのです。結局、相手の主張を受け入れ、CSKグループの保有株も2万7000円の高値で買収するで決着したのです」(日興幹部)

本来、ベル社は、少数株主となったCSKは、放っておけば良かったはずだ。しかし、慌ててCSK保有のベル社株を買い取ったことが、日興の禍根となる・・。


初出:「ソフトバンクにやられた」外資が笑う「日興コーディアルグループ」事件全真相 『週刊新潮』2007年3月22日号


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