サブプライムで「花形外資バンカー」は難民と化した 『週刊新潮』 Part2

そして、〝花形外資バンカー〟の中でも代表的な、ある日本人バンカーの地位も危うくなっている。かつて、モルスタ社長時代のポルテが、「間違ってスカウトした男」と言われる、リーマン・ブラザーズの在日代表、桂木明夫である。

「桂木さんほど、なんの実績も無く出世したバンカーも珍しい。ゴールドマン・サックスにいた頃、上司の持田さん(昌典、現GS社長)が深夜まで残業していのに、九時前にさっさと退社して、接待すら同席しない。モルスタ時代も成果はゼロで、追い出されるように辞職して、しばらく生家で〝家事手伝い〟をしていた。突如、リーマンの在日代表として復帰するのですが、彼の特技は、〝外人に取り入る〟と〝女性を口説く〟だけです」(モルスタ時代の部下)

この桂木が率いるリーマンが、医療再生ファンドの巨額詐欺事件に見舞われた。米系投資銀行の幹部が言う。

「事件の展開次第では、桂木さんの地位どころか、リーマンの東京支店すら消滅しかねない」

3月31日、リーマンは丸紅に巨額の損害賠償請求訴訟を起こした。

その内容は、医療コンサルタント会社「アスクレピオス」(以下アスク社)の医療再生ビジネスに投資した371億円のうち、320億円が、アスク社の破産で回収不能になったというもの。

リーマンは、「再生業務を委託した丸紅に支払い義務がある」と主張している。ところが丸紅は、「業務委託契約自体が存在しない」「契約書、受領証、印章は偽造」「元社員がやったことで支払い責任は無い」と、真っ向から対立している。

事件の主な登場人物は、アスク社側が、元三田証券取締役企画室長でアスク社の社長だった齋藤栄功(46)と、丸紅の元課長で新薬開発会社のLTTバイオファーマの社長だった山中譲(34)。リーマン側は、債券部シニアヴァイスプレジデントのM。さらに、英紙「フィナンシャルタイムズ」に仲介役と報じられたのが、元メリルリンチ証券の債券部マネージングディレクターで、アスク社の「特別顧問」だった埋田敏行である。

アスク社の元役員が事件の構図を解説する。

「アスク社の医療再生ビジネスの大部分が正常な取引で、投資家に分配金を払ってました。ビジネスの原型は、三田証券時代の齋藤と、丸紅にいた山中の2人が作って、平成17年に始めたのです。医療機器導入に必要な設備の施工費用などを、投資家のファンド経由の出資で賄い、機器の売買益の一部を分配するというモデルです」

実際、多くの病院で機器の導入が完了している。では、リーマンが出資した三百億円は、なぜ返還されなかったのか。別の元役員はこう言う。

「結論から言うと、リーマンの371億円は架空取引だったのです。実は、金の流れを把握していたのは、齋藤と山中でした。2月中旬に、支払いが滞ったので山中を問い詰めると、〝齋藤の資金繰りで、架空の病院再建プランを作った〟と認めました。その数は十数件あったのです」

では、〝仲介役〟と指摘された埋田の役割は何だったのか。埋めたは、リーマンの担当者であるMがメリルに在籍していた時の上司である。

「フィナンシャルタイムズは〝黒幕〟のように書きましたが、埋田さんも被害者です。彼自身も2億円以上の金を投資して焦げ付いてます。正常なビジネスが架空取引に変わったことを知っていたのは、齋藤と山中の二人だけでしょう。正常なビジネスでは丸紅も医療機器導入で利益を得ています」(アスク社元役員)

この言葉通り、丸紅とアスク社との間に取引は存在していた。

「病院再生の共同事業ではなく、飽くまでも医療機器単体のビジネスです。平成17年からの3年間で、売上ベースで20億円弱、このうちアスク社との売買が約14億円で、残りは病院との直接取り引きでした」(丸紅広報部)

話を整理すると、アスク社は正常な取引で病院再生ビジネスを展開し、丸紅も利益を上げていたが、齋藤が何らかの理由で資金繰りに窮して、リーマンから三百億円の金を騙し取った、という構図になる。


初出:サブプライムで「花形外資バンカー」は難民と化した 『週刊新潮』2008年5月22日号


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