外資が笑う「日興コーディアル事件」全真相『週刊新潮』Part1


平成16年7月27日、東京地裁民事第8部。

丸テーブルを囲み、裁判官に、訴訟の当事者や弁護士が主張を行う非公開の「審尋」の席で、ソフトバンク社長の孫正義が強い口調で語った。

「我が国の国際競争力を支える通信インフラにコールセンターは不可欠だ。これほど有望がビジネスが認められなければ、日本に大きな損失になる」

この時、コールセンター大手のベルシステム24(ベル社)は、ソフトバンクと手掛ける新ビジネスのために、約1042億円の増資を計画していた。一方、ベル社の筆頭株主のCSKは、「一部の経営陣が株主の支配権を逃れるための増資だ」として、増資の差止請求訴訟を起こし、争っていたのだ。

「ベル社側の参考人として証言した孫さんの発言が効果的だった。裁判所の判断がベル有利に傾いた」(審尋に関わった人物)

孫の証言から3日後、東京地裁はCSKの申請を却下した。そして、日興コーディアルグループ(日興CG)が、約1042億円という巨額のベル社の増資を引き受けることになった。

「あの時、逆の決定が出ていれば、不正会計は起こらなかった。社内の一部からは、『ソフトバンクに騙された』という声すらあがっているほどです」(日興CG幹部社員)

日興CGの巨額不正会計と粉飾決算疑惑は、シティバンクによる日興買収という事態になり、「事件化も秒読み」とさえ言われている。

「日興粉飾」の〝源流〟とも言うべきベル社株の増資引受の経緯を振り返り、日興首脳が不正会計に手を染めざるを得なかった動機を解明したい。

   ■   ■

舞台は3年前の平成16年初夏にさかのぼる。

6月18日、ベル社にCSKから株主提案書が届く。その中身は、「CSKからの役員の選任と一部の既存取締役の退任」を求める厳しい内容だった。

「ベル社は、故・大川功氏とCKSの支援で、三和銀行出身の園山征夫さんが作った会社です。しかし、CSKとは連携せず、NTTやKDDIなど大手との取引を拡大して、独立志向が強かった。一方、現在のCSKトップの青園雅紘さんは野村證券の出身らしく、『株主の権利を行使して、最大限の投資効果を得る』という考え方の持ち主です」(CSK幹部)

CSKの株主提案通りになれば、役員会の過半数をCSKが握る。いずれ、代表の園山の地位すら危うくなるのは、誰の目にも明らかだった。

「CSKの主張は理屈では正しい。ただし一方的に株主提案をするのは喧嘩を売るに等しい。この戦術を強行したのは、野村證券出身で外資系のベア・スターンズ証券をへて、個人でM&AのコンサルタントをしているO氏ですが、園山さんの感情を逆撫でする程度の効果しかなかった」(外資系投資銀行のバンカー)

同じ頃、ソフトバンクも〝危機〟に直面していた。ヤフーBBの顧客情報流出事件が相次ぎ、総務省からもサポート体制を整備するように求められていた。しかし、3000億円を超える日本テレコムの買収を控えており、とても自前でコールセンターを作り上げる余裕は無かった。

両者を結びつけたのが、〝最強外資〟ゴールドマン・サックス証券(GS)社長の持田昌典だった。

「CSKから株主提案があったその日に、持田さんがベル社の園山さんにソフトバンクとの提携を持ちかけたのです。後に訴訟の時にベル社が提出した資料によると、両者にソフトバンクを加えた会合は63回にも及んだようです」(差止訴訟関係者)

持田が、絶妙のタイミングでベル社に提携交渉をしたことには「裏」があった。まったく同じ時期に持田の直属の部下であるマネージング・ディレターの片山俊二が、「保有しているベル社の株を売却しないか」と、CSKに誘いをかけていたのだ。

「片山さんは野村證券出身で、もともと化学や薬品関連のアナリストでした。ギラギラとしたバンカーが多いGSの中では、明るく楽観的な営業スタイルなのでお客さんから評判もよく、持田さんにも可愛がられていた」(GS関係者)

実はCSKは、GSがベル社とソフトバンクの提携交渉の仲介役であるとは知らなかった。それどころか、CSKが「ベル社が何かやってるらしい・・」と気づいたのは、ソフトバンクとの提携と約1042億円の増資案が取締役で提案される7月20日の数日前だった。

「取締役会では、パソコンで作成した提携スキーム図をスライドに写して説明されただけで、印刷したペーパーも渡そうとしなかった。弁護士の立会いも拒否され、強行採決された結果、1票差で園山さん側が勝って、ソフトバンクとの提携が決まったのです」(CSK関係者)

CSKは、M&Aに詳しい大手弁護士事務所に相談するが、いずれも「コンフリクト(利益相反)の可能性があるので受けられない」と断られた。実は、既に国内の大手の法律事務所はベル社側から「顧問就任」の相談を受けいていたのだ。「相手の手足を縛るのは巨額M&Aでは常套手段」(米系投資銀行幹部)と言われている。何も知らずにGSの〝スパイ〟を社内に招き入れていたCSKは、すでに外堀を埋められた後だった。


初出:「ソフトバンクにやられた」外資が笑う「日興コーディアルグループ」事件全真相 『週刊新潮』2007年3月22日号


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