サブプライムで「花形外資バンカー」は難民と化した 『週刊新潮』 Part1


四月下旬、三十代前半の若手バンカーと外資系の商業銀行のシニアマネージャーとの間で、こんな会話が交わされていた。

「モルガン・スタンレーでは年収2000万円を超えてました」
「残念だけど、君の経歴では600万円が限界。業績を上げれば、ボーナスで上乗せするよ」

米国のサブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)危機が、欧米の投資銀行を直撃している。

「シティは公的資金注入で国有化される」「UBSはプライベートバンク以外は解体だろう」「ベア・スターンズ破綻の次に危ないのは、リーマンだ」

こうした声が上がる中、日本の外資系投資銀行では、不動産担保ローンなどの「証券化」を手掛けていたバンカーたちが、次々とクビになっているのだ。

「モルガン・スタンレーは証券化チームを全廃して約100人をリストラした。その中には、マスコミで証券化の解説をしていた篠田勲エグゼクティブ・ディレクターも含まれていた。さらに、リーマン・ブラザーズが40人、ドイツ証券が30人、ベア・スターンズが20人、メリルリンチが10人という具合で、中小を合わせると300人以上が職を失っています」(米国系投資銀行幹部)

金融機関には、クビになったバンカーたちのレジュメ(履歴書)が山積みになっている。

「投資銀行には、M&Aを仕掛ける『投資銀行部門』の他に、フィックスド・インカム(債券の裁定取引)が専門の『債券部門』がある。不良債権ビジネスを担当したのは債権部で、傘下の証券化チームが莫大な収益を稼いでいた」(投資銀行幹部)

サブプラ危機の中、かつて「証券化」を旗印に権勢を誇っていた〝花形外資バンカー〟たちに、何が起こっているのか--。

   ■    ■

そもそもサブプラ危機とは、昨年8月に米国の低所得者向け住宅ローンの証券化商品が大暴落し、世界中の金融市場を大混乱に陥れたことに始まった。

「本来なら買い手がつかない住宅ローンを何百件も買い集めて、他の優良債券を組み込んで格付けを無理矢理『トリプルA』にして世界中の投資家に売っていた。背景には、低所得者までが無理な住宅ローンを組んで家を買ったことがある。永遠に住宅価格が上がり続けると信じて、『買い換えれば利益が出る』と銀行も無謀な融資を繰り返した。日本の不動産バブルと同じ構図です」(大手証券のアナリスト)

日本の銀行もサブプラ関連投資で巨額の損失を出した。しかし、あおぞら銀行(旧日本債券信用銀行)については、「避けられた損失」と言われいてる。

昨年5月、あおぞら銀行のグローバルインベストメント担当の専務に、ジェームズ・ミューディーが就任した。これが悪夢の始まりだった。

「サブプラ関連のCDO(債務担保証券)を買い増して、保有総額を約六百億円にしたのです。結局、1年足らずで400億円を超える損失を出した。当時、既にサブプラ問題が表面化していたのに、なぜ巨額の投資をしたのか・・・」(あおぞら銀行幹部)

 ミューディーの前職は新生銀行のキャピタルマーケッツ部長である。

「ミューディーは、外人部隊を率いて巨額の損失を出したのです。クビ同然で退職したのに、あおぞらが拾って専務にしたのは、悪い冗談かと思いました」(新生銀行幹部)

米系投資ファンドのサーベラス傘下のあおぞら銀行では、こうした外人バンカーたちの不可解な人事が横行している。農林中金専務理事からスカウトした能見公一(62)と、ニューヨークのサーベラスが派遣したフェデリコ・サカサとの対立は公然の秘密だった。

「サカサは、過去に中南米の銀行しか経営したことがない。日本のマーケットも商慣習も何も知らないのです。能見さんが、地銀や住友信託との業務提携を実現したのに対して、サカサは部店長会議などでも〝変革だ〟〝チャレンジだ〟などと抽象論を並べるだけ」(あおぞら銀行幹部)

サーベラスは、能見からCEO職を取り上げて、サカサをCEOにする仰天人事を断行した。能見は「二流外人の横暴に呆れ果て」(あおぞら首脳)て、五月に銀行を去ることが決まった。

一方、新生銀行(旧日本長期信用銀行)も、あおぞらを笑えない。サブプラ関連損失は330億円とメガバンクと比較すれば額は小さいが、日比谷の本店ビルを売却をして赤字を逃れている状態だ。

「本店を売却したのは、2年連続で経営健全化計画が見達成になると、経営トップの首を切られるからです。八城政基会長が去って、長銀を買収したクリス・フラワーズがハーバード時代の同窓生のティエリー・ポルテ(50)を社長にしてから、株価が半値に落ちました。株を保有する日本政府が含み損を抱えても、ポルテは自分の地位を守ることしか頭に無い」(新生銀行幹部)

こうした中、ようやく一人の外人バンカーの首が切り落とされた。新生証券社長のダニエル・シャイアマンである。シャイアマンは、かつてベア・スターンズ証券で住宅ローンの証券化を担当していた。言わば〝サブプラ震源地〟でビジネスをしていた男である。

「シャイアマンが始めたパチンコ事業の証券化で50億円以上を焦げ付かせた。表向きは〝証券化ビジネスに注力する〟ということになってますが、この春にも責任とって会社を去るでしょう。何の実績もないのに新生証券の社長に就いたのが間違いだったのです」(新生幹部)



初出:サブプライムで「花形外資バンカー」は難民と化した 『週刊新潮』2008年5月22日号


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