外資凋落-不動産市場を牛耳るモルガン・スタンレーの暴走『週刊文春』Part3


S氏は、三井不動産からクレディ・スイスを経てMSに入社。今年、マネージング・ディレクターに出世したばかりだ。

「MSは、リートの目玉物件として魅力的な三大都市圏の一等地に優良物件を持っている。目玉物件はリート株価を左右しますが、昨年7月にプロスペクトが公募価格割れをしてから、物件至上主義よりも、多様な投資家層に支持されるポートフォリオを作ることが勝負になった。ところ。がS氏は、物件至上主義を捨てず、『ウチにはいい不動産があるよ』という営業を続けている」(不動産バンカー)

このS氏の営業手法が、森ビルからの「出入禁止」の原因だった。S氏は、森ビルのリートにも自社の不動産物件を売ろうとしたが、その価格が高過ぎたという。

「価格交渉をしている最中、S氏は森社長宛にメールを送り、『主幹事が欲しい』と、直接交渉を試みたようです。物件購入の見返りに主幹事を与えれば、利益相反になり、金融庁に咎められることも考えられる。会社を守るために森社長は『出入禁止処分』にしたのでしょう」(投資銀行バンカー)

結局、S氏は物件を売ることも、主幹事をとることも出来なかったという。さらに、MSが主幹事を務め、9月26日に新規公開が予定されている「日本コマーシャル投資法人」(日コマ)でも混乱が生じていた。

「日コマの母体企業は、MSの〝親密企業〟のPMC。PMCの高塚社長は、日コマでオフィスビルを中心に2000億円規模の巨大リートを作ることを目標にしていたが、8物件で600億円以上のMSの物件を組み込んだため、海外の機関投資家から〝利益相反〟と思われて、なかなか買い手が見つからなかった。そもそも、MS物件の購入価格の適正性について、PMC内部でも議論があったのです。ところがS氏は、『鑑定価格より高い金額で買えないルールを作っている東証は時代遅れだ』と発言し、PMCを唖然とさせたほどです」(不動産バンカー)

焦ったPMCは、他の投資銀行にも引受を任せようと水面下で打診する。この動きを知ったS氏は、PMCにこんな要求を突きつけた。

「S氏は、『主幹事のフォーメーションを変えるなら、物件を引き揚げる』と言ったのです」(外資系投資銀行幹部)

結局、MSが主幹事のまま日コマの公募は行われることになった。高塚社長は親しいバンカーに、「MSに逆らえるわけがない」と咳いたという。

情報源を秘匿するため詳細な記述は避けざるを得ないが、小誌は、S氏が「不動産の拠出」と引き換えに「引受主幹事」を要求するメールが、少なくとも2通、二法人宛以上に存在する事実を確認している。その内容は、「当然、主幹事はいただけるものと考えております」といった言い回しだが、交渉の経緯を知っている人間は、「MSの意図は明らかだ」と証言する。

「主幹事の選定と物件とは無関係であるべきです。公募価格を決めて投資家を集める主幹事に、物件取得まで牛耳られて『これを買え、あれは駄目だ』と口出しされたら、正常な経営が出来ない。リートの運用会社は、投資家のために適切に不動産の売買する義務があることは、『投信法』に明文化されてます」(不動産バンカー)

繰り返すが、適正を欠く取引によって配当金や価格が下がり、損失を蒙るのは一般の投資家である。

モルガン・スタンレーからは、「企業倫理・法令の順守を徹底し、市場の信頼を尊重しています。不動産投資に関わる取引においても、法規および業界基準に則り、業務を行っています」という一文が戻ってきただけだった。広報担当者に、「物件拠出の見返りに主幹事を求めるのはコンプライアンス上、問題が無いという認識か」と聞くと、「そのように受け止められても仕方がありません」(広報部・渋谷邦子氏)という答えが返ってきた。

金融当局は、不動産関連のファイナンスやリートを徹底的に調査している。五味廣文金融庁長官も記者会見で、「リートは一般投資家が購入するものですから、それを運用する投資信託委託業者等に対しては、必要に応じて投信法に基づく報告を求める等、投資家保護のために適切な検査、監督を行っていく」と明言している。

金融庁の厳しい姿勢にリートの関係者は、戦々恐々としている。MSを〝陸の支配者〟にしたカルシは、ニューヨークでグローバルの不動産投資部門のヘッドになり、シュミットはアジアヘッド、茂成は日本の投資銀行部門のトップに出世した。しかし、その地位が揺らぎ始めている。

己の利益を最優先するために一般の投資家を蔑ろにするバンカー、市場を歪めようとする投資銀行は、いずれ日本のマーケットでビジネスをする資格を失うことになるだろう。

初出:外資凋落-不動産市場を牛耳るモルガン・スタンレーの暴走『週刊文春』2006年9月28日号


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