外資凋落-「長銀買収」リップルウッドが表した馬脚『週刊文春』Part2

三菱商事からリップルへ転籍し、ベンチャー企業投資を主導した安渕聖司は平成13年に退社、その後USB証券に移った安渕は、次々と巨額案件を手掛け、いまではGEコマーシャル・ファイナンス・アジアの副社長になっている。

「三菱商事や東京海上火災出身者の混成部隊で構成されたリップルの中で、安渕さんはディールソーシング(案件の発掘)が出来る数少ないバンカーでした。ところがコリンズは、週に何度も来日して自らディールを作り上げようとしていたので、安渕さんの退社を深刻に受け止めなかったんです」(リップル元社員)

平成14年には、リップルに在籍していた前出の河原も退社した。河原は、東芝時代の人脈を生かして日立と交渉し、日本コロムビア買収に成功してから、1年足らずでリップルを後にしたことになる。

「河原さんは、案件を右から左に流すバンカーではなく、経営者です。買収した以上、コロムビアの再建も手掛けたかったのでしょう。ところがコリンズは日本コロムビアに米国人トップを据えた」(リップル関係者)

さらに翌年、今度はシーガイア買収を担当した中村彰利がリップルを去り、産業再生機構の常務取締役となる。中村は、シティバンク時代の八城の部下で、リップルでは投資銀行を経験している唯一の日本人バンカーだった。

リップルの傘下に入ったシーガイアは、大規模な人員削減をしても、いつまでも赤字を垂れ流し続けていた。実は、その元凶は、リップルが送り込んだ経営陣にあった。シーガイアの元社員が証言する。

「施設の運営を任されたスターウッドグループ(アメリカのホテルチェーン)から外国人幹部が約30人来日し、同時に同じ数の秘書兼通訳を雇いました。この通訳が日本人トップより高い給料をもらっていた。厳しいリストラに耐えながら頑張っていた有能な日本人社員が、呆れ果てて次々と会社を去ってしまった」

河原と中村の2人が去った遠因に、「安易な外国人トップの起用」があることは間違いないだろう。

「コリンズの手法は一言で言えば、〝植民地的〟なのです。コリンズは、自分が理解できる自動車部品会社には日本人をトップに置きましたが、他の業種では外国人しか信用しなかった。日本人社員には、投資が成功した際のインセンティブについても明確な契約がなく、報酬はコリンズの胸先三寸で決まっていた。日本人はバンカーと見なされず、〝通訳兼使用人〟のように扱われていたのです」(リップル元社員)

リップルはもう一つ重大な失敗をしていた。それは、「ハゲタカ批判」を積極的に払拭しなかったことだ。「群馬県の自動車金型世界最大手オギハラの買収に失敗し、ダイエーの福岡三事業もコロニー・キャピタルに奪われた。

「この2つのディールは、リップルの提案のほうが相手企業に有利だったにもかかわらず、〝ハゲタカ〟のイメージが強すぎて、地元の財界から拒絶反応が起きたようです」(外資系ファンド幹部)

資本と人材を投入し、経営再建していたリップルがハゲタカファンドでないことは明白だが、コリンズ自身も、小誌の取材にこう答える。

「いわゆるハゲタカ批判も、当初、当社の哲学、企業再生にかける熱意、資金及びノウハウなどについて説明が足りなかったのも一因と考えています」

平成16年に新生銀行が再上場し、「ハゲタカ批判」が再燃していた頃、2社の外資系投資ファンドによる対照的な買収劇が起きた。5月、リップルは前年に買収していた「日本テレコム」をわずか半年でソフトバンクに転売し、約800億円もの売却益を手にした。

「リップルが標榜する『インダストリアル・パートナー(産業顧問)』による企業再生とはかけ離れた利ザヤ稼ぎで、〝転売屋〟と見下されても仕方がないディールだった」(外資系投資ファンド幹部)

リップルがマーケットで評価を落した一ヶ月後、同じ米系ファンドのカーライルは、京セラとともに「DDIポケット」を買収し、日本AT&T元社長の八剱洋一郎をスカウトして社長にした。この会社が「ウィルコム」と名前を変え、当時〝終わった通信規格〟と言われていたPHS事業を通話料定額制で蘇らせた。

「リップルは日本人を上手に使いこなせなかった。最初に組成した1200億円の投資資金も消化できず、当初の投資期間の3年を5年に延長し、ファンドクローズまでの期限も10年から12年に延ばした」(外資系投資ファンド幹部)

ところが、それでも出口を見出せなかった。昨年3月、リップルは既存のファンドを「RHJインターナショナル」に再編して、ベルギーの証券市場に株式公開した。コリンズはこう説明する。

「上場企業になったことで、経営の透明性を高めるとともに、日本の状況にマッチした形で中長期的な再生事業に取り組むことが可能になりました」(コリンズ)

しかし、この上場を「リップルの日本向け投資が失敗した証拠ではないか」と見るバンカーは多い。

「私募のプライベートエクイティ(未公開株)ファンドが上場すること自体が異例です。株式を公開すれば、ファンドのキャピタルゲインやマネジメントフィー(運用手数料)の一部を株主に分配することになる。投資が順調なら株式市場から資金調達をする必要はない。おそらく、このままファンドの期限を迎えると損失が確定するので、〝永久に返さなくていい金〟を調達することで、出資者を納得させたのでしょう」(外資系投資ファンド幹部)

1200億円を運用するリップルが受け取るマネジメントフィーは、年間約18億円と言われている。なぜ、この金で有能な日本人バンカーを雇わなかったのか。優秀なバンカーがいないファンドがディールを奪えないのは当然である。

初出:外資凋落-「長銀買収」リップルウッドが表した馬脚『週刊文春』2006年10月5日号


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