外資凋落-不動産市場を牛耳るモルガン・スタンレーの暴走『週刊文春』Part2


平成15年末。MSのニューヨーク本社と東京オフィスの間で、重大な会議が繰り返された。「日本の不動産投資から撤退して利益を確定するか」「このまま日本で投資を続けるか」……。すでにMSは日本に1兆円規模の投資をしていた。撤退しても、自前のファンドの出資者である機関投資家には充分な還元ができる。しかし、最終的に「今まで以上に不動産投資のポジションを高める」と、いう決断が下された。

翌年1月、MSは「日本レジデンシャル投資法人」(日本レジ)の新規公開で、初めてJ-REIT(日本版不動産投資信託)で主幹事を務めた。日本レジの母体企業は、先のPMCである。

「この年から、三大都市圏の地価が急激に高騰した。そして、多くのデベロッパーがリート市場への参入を目指すと、大量のオフィスビルを保有するMSに、『物件を売って下さい』と頼むようになった」(不動産バンカー)

数年前と立場が逆転し、MSは保有する膨大な、物件をリートの投資法人にも売却するようになる。リートとは、金融商品の一種で、複数の不動産物件を保有する投資法人が、賃貸収入などで得た利益を投資家に配当金として還元する仕組みである。日本では5年前に東京証券取引所に新設された。一般の個人投資家もネット証券などを通じて簡単に取引が可能で、少額で不動産投資に参加できることで人気を集め、運用資産総額も5兆円を超えようとしている。もっとも、リートは法整備が追いつかず、数々の問題を指摘されてもいる。

三菱地所住宅販売出身で、リートアナリストの山崎成人氏が解説する。

「リートは、投資の受け皿となる『投資法人』とアセットマネジメントを担当する『運用会社』で構成されます。運用会社の株主にはリートを組成した『オリジネーター』という設立母体企業がいて、運用会社の役員も兼務している。母体企業が保有する不動産を運用会社が買う場合、『購入は妥当か』『価格は妥当か』という二点が問題になりますが、この両者は表裏一体なので、運用会社は『コンプライアンス委員会が審査した』と発表するだけで、審査内容は全く公表されないのです」

また、元建設会社社長で、一級建築士の山本明彦衆院議員(自民党)は、不動産鑑定の〝曖昧さ〟をこう指摘する。

「不動産鑑定士は公的な資格ですが、会社と監査法人の関係と同じで、どうしても金を払って鑑定を依頼する業者の意向に従わざるを得ない。役所は必ず二つ以上の鑑定を取りますが、リートの物件購入が適切かを検査する法的な基準が無く、運用会社の判断だけに任されている。一般の個人投資家が参入する市場である以上、リートの透明性を高める必要がある」

仮にリートが高値で物件を購入すれば、投資家に支払うべき利回りが下がる。利回りが下がればリート株価が下落し、当然、投資家が不利益を蒙ることになる。つまり、そもそものリートの仕組み自体が「利益相反」のリスクを孕んでいるのだ。MSは、こうした抜け穴のあるリート市場を巧妙に利用して、自社のファンドが所有する物件を次々に処分している。

これまでMSが主幹事をつとめたのは6社で、このうちで公開時にMS関連物件を購入していたのは4社、総額943億2200万円の不動産をリート市場に送り込んだ計算になる。不動産バンカーはこう指摘する。

「MSのファンドにも出資者がいます。MSは出資者のために『最高値』で不動産を売る義務がある。その一方で、地方銀行などの機関投資家に、『優れた金融商品です』と、リートを売ることで手数料を貰うわけです。また、わずかとはいえ、リートの運用会社にもMSが出資している以上、物件を『最安値』で買うように求めなければならない。どこの利益を最優先しているのか分からなくなってしまう。明らかな利益相反です」

なぜMSは多くの物件を売却し、主幹事も獲得することができたのか。外資系の不動産バンカーが証言する。

「もちろん6社の主幹事をとることができたのはMSの営業努力でしょう。しかし、一部の幹部バンカーは、物件と主幹事を交換条件にする営業活動をしているのです」

投資銀行は、主幹事を獲得することで公募価格の決定に影響力を持つことが出来る。手数料は3.5パーセント程度だが、主幹事を獲得することは投資銀行のバンカーにとって最大の勲章となる。この幹部バンカーとは、MSの投資銀行部門で3年以上前からリートを担当しているS氏である。

初出:外資凋落-不動産市場を牛耳るモルガン・スタンレーの暴走『週刊文春』2006年9月28日号


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