外資凋落-最強外資 ゴールドマン・サックスの本性『週刊文春』Part2

そもそもGSと日航は、1000億円規模の巨題ディールを手掛けるほど親しい間柄ではなかった。GSのカンパニーエアラインは全日空で、出張で日航を使うこともない。

「日航は伝統的に、旧日本興業銀行と親しかった。また、西松さんの長男がみずほ銀行、娘さんがUBS証券に在籍していて、『国内みずほ』『海外UBS』のペアが多かった」(大手証券幹部)

ところが、UBS証券で日航を担当していたマネージングディレクター(MD)の安渕聖司が、今年、GEコマーシャルファイナンスのアジア統括の副社長に転職していた。

「安渕さんは、三菱商事からリップルウッドをへて、UBSでは運輸セクターと民営化部門のヘッドとして数多くのディールを手掛けた実力バンカーです。安渕さんの退社で、日航とUBSの間に一時的に空白が出来てしまった」(外資系投資銀行のパンカー)

この間隙にGSが入り込んだという。持田は周到に用兵したようだ。

GSのIBDには、飲食接待などの〝肉体労働〟と司令官を兼務する社長の持田の下に、〝頭脳労働〟を担当する三奉行がいる。三井住友の増資を手掛けた小野種紀、楽天によるTBS嫌買収などのM&Aのヘッドを務める矢野佳彦、金融部門以外を統括する小高功嗣の三人のMDだ。

まず、三奉行の一人の小野を、FIG(金融機関担当)からGIG(一般産業担当)に変えた。実は、小野と日航の資金部長の河原畑敏幸が友人同士だったのだ。もっともこれだけで日航の主幹事を奪ったわけではない。河原畑本人もこう答える。

「小野さんとは、彼が弁護士をしている頃からの付き合いです。もちろん一緒に食事にいったこともありますが、(主幹事決定とは)関係ないです。飽くまでもビジネスとしての判断で、GSの条件が良かったということです」

河原畑が言う「GSの条件」とは何か。ある外資系投資銀行の幹部は、「GSが演じたのは〝10%ゲーム〟だ」と表現する。

公募増資などの新株発行では、通常、特定の日付の株価から2~4%を割り引いた価格で募集が行われる。ところが、日航の増資では、4~6%という破格の割引率が提示された。

「前代未聞の数字です。それほど日航株の信用がないという証拠。GSは、『4%で売れたら手数料は6%、6パーセントなら4%の手数料を貰う』という提案をしたようです。つまり、日航は実質的には10%の割引率で新株を発行したことになる。これではMSCB(下方修正条項付転換社債)と同じ割引率ですが、西松社長は、MSCBを発行して、レスキューファイナンス(非常時の資金調達)だと思われたくなかったのでしょう」(外資系投資銀行幹部)

多くの専門紙は、「割引率は6%になる」と悲観的な観測記事を書いた。しかし、GSは最終的には4%の割引率で資金調達に成功する。結局、〝10%ゲーム〟は、「資金調達に成功する」「西松社長の面子を保つ」「GSが6%の莫大な手数料を受け取る」という目的は果たした。だが、株価は一ヶ月で3割も暴落し、既存株主の価値を大幅に毅損した。資本市場の規律が、GSの条件によって蔑ろにされた形だ。

本来、外資系の金融機関は、レピュテーション(評判)が落ちることを最も嫌う。しかしGSは吹っ切れたように「株主を軽視」し「自分さえ儲かればいい」というビジネスに邁進し始めたかのようだ。

もっとも、GSが「株主軽視」をするのは日航の増資が最初ではない。昨年12月、経営危機に陥った三洋電機に、GSは大和証券SMBCとともに出資している。そして、今年1月には「1株70円」という時価の4分の1以下で三洋電機の優先株を引き受けた。

「この優先株は、必要に応じて取締役会が転換比率を変えることができる。GS、大和は優先株を引き受けながら役員も派遣している。GSや大和出身の取締役は、三洋電機の利益との間で板ばさみになったら、どちらを優先するのでしょう。コンプライアンス上の問題が発生しかねない」(企業法務に詳しい弁護士)

実は今年、GSのコンプライアンス室長の石橋英樹がクレディ・スイスに移籍している。

「石橋さんは、投資銀行の法務分野では、ストリート(事務所に所属しないコンプライアンス・オフィサー)ではナンバーワンの実力者です。持田さんが企画する乱暴なディールにも、キッパリと〝ノー〟が言えた。GSの法令順守業務に支障が出るのは、避けられないかも知れません」(GS関係者)

そして、今年7月、持田の後ろ眉だった米GSのヘンリー・ポールソン会長がGSを辞めて米財務長官に就任した。

「持田さんは、ポールソンに可愛がられて日本のGSのIBSヘッドに就任した。三井住友銀行へ1500億円もの直接投資が出来たのもポールソンが会長だったからです。ポールソンを失った持田さんが、現在の地位を守るためには、『儲け続ける』しかありません」(同前)

初出:外資凋落-最強外資 ゴールドマン・サックスの本性『週刊文春』2006年9月21日号


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