外資凋落-「長銀買収」リップルウッドが表した馬脚『週刊文春』Part1


「リップルは、もう過去のファンドだよ・・・」

いま、外資系投資ファンドの幹部からはこんな言葉すら漏れてくる。わずか5年前、まだ40歳を過ぎたばかりのアメリカ人バンカー、ティモシー・コリンズが率いる投資ファンド「リップルウッド」は、日本長期信用銀行(現新生銀行)に続き、シーガイア、日本コロムビアなど、経営危機に陥った日本企業を次々と買収した。

しかし、製紙会社の敵対的買収など、日本企業同士のM&Aが当たり前になったいま、リップルの名がメディアに取り上げられることは滅多になくなった。かつて、〝外資〟の代名詞として日本企業から恐れられていたリップルに、一体何が起こったのか。

平7年、コリンズはニューヨークで「リップルウッド・ホールディングス・LLC」を設立したが、その頃から明確に日本進出を目論んでいた。

「コリンズは、イェール大学時代の友人の父親を通じて、三菱商事の横原稔社長(当時)と知り合い、平成8年には三菱商事からの出資と人材を受け入れました。それから何度も来日して、外資系のコンサルタント会社の紹介などで、日本の上場企業に挨拶回りをしていったのです」(外資系投資ファンド幹部)

コリンズが挨拶に訪れた会社の一つに東芝があった。現在、ケンウッドの社長を務める河原春郎は、当時、東芝で関連会社を統括する取締役としてコリンズとの会合に出席した。河原本人が当時を振り返る。

「ちょうど、(コリンズが)日本に事務所を立ち上げる2年前だったと思います。当時は投資ファンドというビジネス自体を知らなかったので、非常に新鮮でした。思えば、企業再生を手掛ける外資系のファンドで、最も早く動き出したのがリップルでした。その後、コリンズから誘われ、日本オフィスの立ち上げに参加したのです」

当時、リップルは日本国内はもとより、米国でも無名だった。米国で巨大ファンドといえば、LBO(レバレッジド・バイアウト)などの投資手法を作り出した「コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)」や、ブッシュ大統領ファミリーを顧問にして軍事産業を牛耳る「カーライル・グループ」などである。

「コリンズは自動車部品メーカー出身で、米国では自動車関連の投資を細々と手掛けていた。日本でも自動車関連メーカーの投資に焦点を当てていた。ところが、長銀買収を狙うクリストファー・フラワーズと知り合い、〝相乗り〟させてもらったのです」(外資系投資銀行幹部)

平成11年、元ゴールドマン・サックスのパートナー(共同経営者)のフラワーズが「ニュー・LTCB・パートナーズ」という長銀買収専用のファンドを組成した。一方、リップルのコリンズは、三菱商事の愼原や八城政基(元シティバンク在日代表)など、ファンドの〝表の顔〟となる日本人経営者を口説き落す役割だった。

「長銀買収は、フラワーズのディールだった」

外資系金融機関の首脳たちはこう明言するが、当時の日本のメディアや財界関係者は勘違いしていた。

「長銀買収をリップルが主導したように報じ、暇疵担保問題の責任まで押し付けて〝ハゲタカ〟扱いした。この批判で、逆にリップルがウォールストリートの中枢に太いパイプを持つ巨大ファンドのように思われ、実力以上に評価されてしまった」(外資系ファンド幹部)

このときリップルは、三菱商事の協力で、長銀買収とは全く別の「RHJインダストリアルパートナーズファンド」という日本企業への投資を目的としたファンドへの出資も募集した。そして、新人プレーヤーのコリンズに、日本企業を中心とした投資家が1200億円もの巨費を投じたのだ。

「この過大評価が、間違いの始まりだった」(リップル関係者)

長銀買収から1年半後の平成13年、リップルは大規模な買収劇を次々と手がけた。リップルが買収したのは、自動車部品メーカーの「ナイルス部品」、音響機器と音楽製作の上場企業「日本コロムビア」、そして宮崎県の大規模リゾート施設「フェニックス・シーガイア・リゾート」だ。

ところが、その派手な買収攻勢の裏で、なぜかリップルの日本人幹部が相次いで会社を後にしていた。

初出:外資凋落-「長銀買収」リップルウッドが表した馬脚『週刊文春』2006年10月5日号


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