外資凋落-不動産市場を牛耳るモルガン・スタンレーの暴走『週刊文春』Part1


「モルガン・スタンレー出入禁止」

今年4月下旬、不動産バンカーたちの間に、不穏な情報が飛び交った。米系投資銀行「モルガン・スタンレー証券」(MS)が、森ビルから出入禁止処分を食らったというのだ。六本木ヒルズのオーナーでもある森ビルは都心に多数のオフィスビルを所有している。
「森ビルの森稔社長は、MSのティエリー・ポルテ元社長(現新生銀行社長)とも個人的な友人で、上海で建築中の世界量高層のビル『上海環球金融中心』のファイナンシャルアレンジャーをMSに任せるなど、密接な関係でした。情報はデマだと思ったのですが……」(投資銀行のバンカー)

ところが、ほどなくして「森ビルが公開準備を進めているリート(不動産投資信託)の主幹事からMSを外した」という続報が入ってきた。

「森ビルのリートの主幹事獲得のために、年初から、ゴールドマン・サックス(GS)のヘンリー・ポールソン会長(当時)、MSのジョン・J・マック会長、UBSのビーター・ウフリCEOといった大物が、森社長を表敬訪問するために〝ヒルズ詣で〟をしていた。すでにMSは当選確実で、GSとUBSが最後の椅子を争うと思われていた」(外資系投資銀行幹部)

しかし、主幹事を獲得したのは、みずほ証券、GS、UBSの三社だった。MSは、日本国内で約2兆円もの巨額の不動産投資をしている。不動産投資の分野では、〝最強外資〟のGSでさえ歯が立たず、MSは〝陸の支配者〟と恐れられていた。それだけに、MSの牙城を崩したGSとUBSには、同業の不動産バンカーから「良くやった」と絶賛するエールが届くことになる。

一方のMSは、会長のトップセールスも実を結ばず、「取れて当たり前」のマンデート(委任状)を逃し、敗北してしまった。森ビルとMSの間で何があったのか。この謎を解き明かすには、まずMSが日本で不動産投資の覇権を握るまでの歴史を振り返る必要がある。

平成9年、MSの不動産部隊は、インド系米国人のソニー・カルシを中心に、日系人のフレッド・シュミット、住友不動産出身の古川尚志、ロンドンから呼び戻された茂成吉彦など、20人はどのメンバーで新たに組織された。

「最初は、外資が不良債権や不動産を買い取ると言っても門前払いでした。唯一アメリカで不良債権ビジネスを経験したカルシは日本語が出来ない。そこで日系人バンカーも何人か来日しましたが、結局、時間をかけて大京を口説き落としたのは、古川さんだったのです」(MS関係者)

平成10年3月に大京の賃貸マンション1200戸を一括購入したことを契機に、MSの成功物語がスタートする。MSは、紀尾井町ビル、ウェスティンホテル東京、新神戸オリエンタルホテルなど、経営危機に陥った日本企業から吐き出される不動産や不良債権を買い漁った。

「MSは、GSなどと違って単純な不動産の転売をしなかった。債務者と交渉して不良債権の回収をする際は、その工程をすべてデータ化して、格付け機関に客観的な資料として提出したので、MSの不動産は常に高い格付けが得られました」(同前)

そして、MSが買った大京マンションのデューデリジェンス(審査)とアセットマネジメント(資産運用)を一手に請け負うことで成功したのが「パシフィックマネジメント(PMC)」の高塚優である。一介の不動産コンサルタントに過ぎなかったPMCは、その3年後に店頭公開し、今では東証一部上場を果たすほど急成長した。

「我々は、日本の不動産を底辺で買い支えた」MSのバンカーたちはこう自負している。彼らは、時には一刻も早く不良債権を処理したい邦銀から「数百円」から「1円」という捨て値で不良債権を買いとったが、それを「ハゲタカ」と批判するのは負け犬の遠吠えに等しい。

不動産融資の総量規制で地価が昭和50年代前半の水準にまで暴落した「市場の歪み」を利用するビジネスを知らなかった日本企業、さらに歪みを放置した金融機関と行政が敗北しただけである。MSは、真っ当なビジネスで「陸の支配者」となったのだ。

初出:外資凋落-不動産市場を牛耳るモルガン・スタンレーの暴走『週刊文春』2006年9月28日号


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