外資凋落-最強外資 ゴールドマン・サックスの本性『週刊文春』Part1


長野新幹線の軽井沢駅から旧軽井沢方面に車で約10分。人目を避けるように、車道から20メートルほど奥まった場所に、真っ白な漆喰とベージュのレンガで彩られた二階建て瓦葺の瀟洒な別荘が建っている。

この地は、かつて旧華族の徳川家、細川家、そして田中角栄元首相などが別荘を構えたことで知られ、「軽井沢の中でも最上級の一帯で、坪単価4~50万円」(地元の不動産業者)と言われている。

別荘の門扉にはローマ字で「MOCHIDA」と書かれている。別荘の持ち主は、これまで日本における「最強外資」の名をほしいままにしてきた、ゴールドマン・サックス証券(GS)の社長、持田昌典である。平成13年に新築されたこの別荘では、週末になるとゴルフ接待を兼ねた「宴」が催されている。

今年8月12日、この別荘に20人ほどのビジネスマンとその家族が集まり、酒宴が開かれていた。持田がオーナーの西麻布のフランス料理店「コット」のシェフがバーベキューを焼き、GSの社員数名が食事や酒を振舞う。持田は、独特の甲高い声で延々と喋り続け、大声で笑いながら招待客を隅々まで見回し、誰もが楽しめるように気を配る。

そして、持田が座るテーブルには二人の意外な人物が席を並べていた。前三井住友銀行頭取で現在は日本郵政社長の西川善文。やはり三井住友銀行出身で楽天副社長の國重惇史である。大物が陣取ったテーブルからは近寄りがたい空気が漂っていたが、三人が大声で話す冗談は、部屋中に響き渡っていた。

持田が「昨年は村上(世彰)も別荘に呼んだが、今回は呼べねえな」と言うと、國重が「マスコミの連中が家に来て、『検察に事情聴取されたそうですが』とか言ってくる。バカバカしい」と応える。西川は「三井住友はGSに救ってもらった」と言い、高級ワインを持参していた……。

バブル崩壊後、外資系投資銀行や投資ファンドの成功は、「ハゲタカ」と批判を受ける一方、その手法を真似ただけの「ヒルズ族」なる虚業家も生み出した。しかし、今年に入り、ライブドアや村上ファンドが摘発され、「儲かれば何をしてもいい」という外資の思想は否定されようとしている。

景気が回復しつつある日本では、ようやく嫉妬や羨望を排して「外資」を公平に評価することが出来るようになった。あらためて外資のいまを追うと、最強と言われたGSにすら「凋落」の兆しが訪れているのだ。

      ■     ■

GSが、日本で圧倒的な存在感を誇示したのは、平成11年、国有化された日本長期信用銀行をリップルウッドに売却する際に政府側のアドバイザーになってからだ。その後、NTTドコモの海外投資、三井住友銀行の総額4500億円の増資などのメガディールを手掛け、経営破綻したゴルフ場を買収して日本最大のゴルフ場オーナーになり、「最強外資と言われるようになった。

そして、GS社長で投資銀行部門(IBD)のトップに君臨する持田は、これまでの「ピンストライプの高級スーツに身を包んだ外資のパンカー」というイメージを打ち破る、型破りの男として成功していた。持田は、飲食、ゴルフなどの接待営業を通じて企業トップに食い込み、孫正義、西川善文、立川敬二(NTTドコモ)などのワンマン経営者を〝落とし〟て、巨額ディールを手にしていた。

わけても、西川と持田との親密さは常軌を逸していた。平成14年12月、西川が来日中だった米GSのヘンリー・ポールソン会長と竹中平蔵(当時は金融・経済財政政策担当大臣)を引き合わせ「三者会談」を行い、翌年1月に三井住友銀行の1500億円の優先株をGSが引き受けた。

さらに2月には、西川の〝独断〟で、他の証券会社と進めていたディールをキャンセルし、3000億円もの増資の主幹事を持田が率いる東京のGSに与えた。ワンマンで知られる西川と持田が、ゴルフや飲食などを頻繁に繰り返す姿は、三井住友銀行内でも怪訝な目で見られていたほどだ。

ところが今年になって、他の投資銀行のパンカーから「最近のGSは何かおかしい・・・」という声が挙がっている。その舞台となったのが、「近年稀に見る最悪のドッグディール(大量の売れ残りが出た引受業務)」と言われた、日本航空の巨額公募増資である。

6月28日、相次ぐ安全トラプルと内紛、巨額赤字を計上した末、株主総会後に西松遥が日航の新社長に就任した。ところが、その2日後、日航は突如、発行済み株数の約37%にあたる7億株もの巨額増資を発表する。明らかに株主を軽視した資金調達に、東京証券取引所の西室泰三社長、日本証券業協会の安東俊夫会長、さらに社外監査役の西村正雄(元日本興業銀行頭取、8月1日に死去)までが、「不透明」「株主への説明不足」と厳しく批判した。

この増資の主幹事として中心的に資金調達に動いたのが、国内はみずほ証券、海外はGSだった。しかし、国内では予定通りの株数を売ることが出来ず、途中から5500万株を海外向けに変更。一方のGSは、ヘッジファンドなどを中心に4億株以上を〝売り捌く〟ことに成功した。日航の西松遥社長を自宅で直撃すると、ほろ酔い加減でこう持田を絶賛した。

「知ってるでしょ、持田さん。レバノン情勢で油の値段も上がって、色々と風当たりも厳しい中で、よくやり遂げた。互いの健闘を称えたんです」

GSの圧倒的な資金調達能力、持田のエクセキューション(実行)能力は、高く評価するべきだろう。しかし、「GSが主幹事として儲けた仕組み」を解明すると、手放しで褒め称えることは出来ない。

初出:外資凋落-最強外資 ゴールドマン・サックスの本性『週刊文春』2006年9月21日号


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