メディア買収劇に見る外資系投資銀行の実像『Foresight』Part1


昨年九月三日、土曜日の夕方。長野新幹線の軽井沢駅ホームで、六人ほどの男たちが声をあげて笑い合っていた。明らかにゴルフ接待の帰途といった風情である。日焼けをした精悍な顔つきで、ヨレヨレの黒いポロシャツを着た小太りの中年男性が、会話の中心になっている。

「いやぁ、お会いする前はどんな方かと思ってましたが、気さくで楽しかったですよ」

こう言われると、黒いポロシャツの男が笑いながら応じる。

「それはもう、何といっても大事なお客様の前ですからね。会社ではもうちょっとピシッとしてますよ。がっはっはっはっ」

独特の甲高い声、人懐っこい笑顔・・・。この男こそ、ゴールドマン・サックス(GS)で「最強外資」と言われる日本の投資銀行部門を統括する、持田昌典社長である。

持田は、軽井沢に別荘を持ち、三井住友銀行前頭取の西川善文などの顧客を、一泊ゴルフ付で接待している。この日も金曜日の夜から一泊してゴルフ接待をした帰りだろう。相手の立場に合わせたのか、車の送迎でもグリーン車でもなく、新幹線の指定席に同乗して帰京した。東京駅のホームでは、両手で握手をしながら「今後ともよろしくお願いします」などと言い、相手に後頭部が見えるほど深々と頭を下げていた。

この姿を見て、いったい誰が「資産百億円を超える外資系投資銀行のトップ」だと思うだろうか。贔屓目に見ても「土建屋の宴会親父」が関の山である。持田が休日返上でこれほどの接待営業をしているとは、日本の銀行や証券会社の首脳には想像もできない姿だろう。

この男が「仕掛けた」と言われるのが、楽天のTBSへの経営統合だった。軽井沢駅で持田が大声を張り上げていた前日には、米国からGSのヘンリー・ポールソン会長が来日し、楽天本社で三木谷浩史社長、国重惇史副社長と会い、二千億円といわれる増資の提案をした。後日、楽天幹部は、大和証券SMBCとGSに、グローバルオファリング(国内外同時の株式の売出)について口頭で依頼したという。ところが、楽天とTBSの経営統合は、みずほコーポレート銀行の齋藤宏頭取の仲介で棚上げになり、GSは、グローバルオファリングの実行はおろか、楽天から正式なマンデート(業務委託)すら受けられず、投資銀行として何もせずに年を越してしまった。

かつての「ハゲタカ批判」や「日本経済の救世主」など「虚像」ばかりが独り歩きしてきた外資系投資銀行は、ライブドア・フジ、楽天・TBSという「失敗」に終わった昨年のメディア買収劇でどう動いたのか。

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昨年二月、ライブドアがニッポン放送の株式を三十五%取得し筆頭株主に躍り出た。ライブドアに資金提供をしたのは、リーマン・ブラザースだった。ライブドア株を借り受け、MSCB(転換社債型新株予約権付社債)を引き受けるという手法だが、このファイナンスは、GS、メリルリンチ、日興プリンシパルなど数社の証券会社から拒否された挙句、「リーマンが毒饅頭に食らいついた」と言われる〝いわく付き〟の代物だった。

「ライブドアは、資金の使い道を説明しなかった。よくよく調べてみると敵対的買収資金だった。レピュテーション(評判)リスクを考えると、とてもファイナンス出来ない」(外資系投資銀行幹部)

リーマンは、MSCBを引き受けた後、借り受けたライブドアの株を海外の関連会社経由で売却し始めた。実は、MSCBは引き受け時点から株価が下がるほど発行会社が受け取る株数が増える仕組みである。リーマンは、意図的にライブドアの株価を下落させ、数百億円の利益を上げたと言われている。

ライブドアに対してこのストラクチャー(仕組み)を進めた人物は誰か。村上世彰やGS出身のマネージング・ディレクターのS氏など、様々な名前が取り沙汰されたが、「メリルからリーマンに移ったK氏」という見方が有力である。しかも、「リーマンはライブドアに対して『株価下落リスクがある』という事実を伝えていなかった」とも指摘されている。

リーマンの在日代表は桂木明夫である。東大法学部から興銀に入り、バンカース・トラストのジャパンデスク、GSではヴァイスプレジデントに過ぎなかったが、モルガン・スタンレーのティエリー・ポルテ(現、新生銀行社長)に請われて、モルスタの投資銀行部門のヘッドになった際には、「数億円の支度金が用意された」とまで言われている。もっとも、当時の桂木について調べると、俳優並みのルックスのためか「派手な女性関係」のエピソードはあるものの、肝心のバンカーとして実績が聞こえてこない。父親の元衆議院議員・轍夫の死去後に、大した実績も上げられずにモルスタを退社。一時期は相続した資産の管理をしていた。

「遊んでいた桂木さんがリーマンの在日代表に就任したのは、英語力と毛並みの良さでしょう。再婚したバレリーナの奥さんが、バレー学校を設立するために資産を食い潰して仕事をせざるを得なくなったとも言われてます」(GS時代の後輩)

なぜ、桂木は株式市場を混乱させる〝下品な金儲け〟にゴーサインを出したのか。理由の一つは、米国のリーマンの好決算でプレッシャーが大きかったことが挙げられる。もっとも、桂木が日本のM&A市場に風穴を開けるために敢えて汚れ役を買って出たのなら、少しは見所があるバンカーとして評価ができるが、本人に深い思慮があったとは思えない。ライブドア騒動の真っ最中、親しいバンカー仲間が集ったパーティの席上で、「こんなに大騒ぎになると思わなかった・・・」と、桂木は他人事のように語っていたという。

一方、フジテレビ側のアドバイザーについた大和証券SMBCも、買収防止策として「新株予約権の発行」を提案したが、あっさりと高裁に差止められてしまう。「あんな低レベルな買収防止策が認められたら、日本は社会主義国家だと思われて、外国人投資家が逃げ出す」(他の大手証券幹部)とまで言われた。では、大和SMBCはどうすれば良かったのか、M&A実務に詳しい弁護士はこう語る。

「本来なら、数百円ほど高い株価でTOB(株式の公開買い付け)を仕掛けるべきだった。ところが、大和自身がニッポン放送株を所有していたので、利益誘導的な行為として差止められる可能性があった。そもそも大和をアドバイザーにしたのが間違いです。ライブドアの資金が枯渇するのは目に見えていたので、何もしないで放っておいても過半数の株を取られる心配は無かったと思います」

結局、ライブドアとフジは、ソフトバンク・インベストメントの北尾吉孝の仲介で資本提携したが、リーマンは数百億円の儲けと引き換えに、日本市場での「信頼」を失ってしまった。リーマンに〝Second Tier〟(二流)という評価が定着したのも致し方ないだろう。

初出:『Foresight』2006年2月号


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