リーマン・ブラザーズ/アスクレピオスの巨額詐欺事件は主犯の〝逃げ切り勝ち〟か

17日、丸紅を騙った医療機器巨額詐欺事件の主犯、齋藤栄功(アスクレピオス前社長)がLTTバイオファーマ株のインサイダー取引で再逮捕された。もっとも、この件は今年2月に明らかになっている。この逮捕が最後で、二十日間の拘留後に詐欺罪などで起訴されることになるだろう。そして、リーマン・ブラザーズが騙し取られた371億円は戻らないまま、事件の捜査が終焉することになりそうだ。

この事件については、「サブプライムで『花形外資バンカー』は難民と化した」(『週刊新潮』2008年5月22日)の中で書いたが、捜査が最終段階になっても、いまだに謎が多い事件である。

・齋藤の動機は?

アクスレピオスの医療再生ファンドそのものは、投資家からの出資も病院への投資も実体があった。出資者は機関投資家だけでなく、個人や従業員も含まれていた。彼ら全てを裏切ってまで、破綻することが目に見えている巨額詐欺に手を出したのはなぜか。また、丸紅の偽部長まで仕立てて371億円を騙し取ったのなら、そのまま山分けにして逃げればいいはずだが、なぜ他の出資者へ償還したのか。

・リーマンはなぜ371億円も出資したのか?

371億円もの巨額の出資をしても、投資先が存在しないのは調べれば分かったはずである。その間にゴールドマン・サックスも出資している。詳細は不明だが、リーマンからの一回目の出資金の償還をGSや香港のヘッジファンドからの出資金で賄い、GSへの償還をリーマンの二回目の出資金で賄ったような格好で、単なる「ねずみ講」である。リーマンの担当者自身も個人で出資していたが、肩書きは単なるSVP(シニア・ヴァイスプレジデント)である。一人の判断で百億円を超える金を動かせるはずがない。300億円もの出資となれば、東京の投資委員会だけでは不可能なはずで、リーマンのニューヨークのコミティの審査と了解が必要だろう。「サブプラ危機で判断が鈍った」と言われても、まったく説得力がない。

・騙した金はどこに消えた?

齋藤は、香港に逃亡していた。ところが中国当局にマネーロンダリング容疑で身柄を拘束され、警視庁からの「帰国しろ」という命令もあり、自ら出頭した。警視庁の取調べにも、金の行方はまったく吐かないという。そして、共犯者として逮捕された元役員などは、「齋藤に騙された」と主張しているらしい。彼らは僅かな金で齋藤の詐欺に加担させられた構図になる。リーマンから騙した371億円は、他の出資者に償還されたため、実際に消えた金は3~40億円程度だという。これらの金は、日本の銀行から現金で引き出されたようで、その後の行方がまったく分かっていない。銀行間で送金していれば、当然、足がつく。現金のまま持ち出して、香港へ入り、匿名口座などに隠すことが出来るのかは知らない。チューリヒ国際空港には、現金を持ち込む日本人専用の出入り口があり、その場でスイスの銀行に預けることが可能らしいが・・・。

いずれにしろ、詐欺罪とインサイダー取引で起訴されて実刑になっても、早ければ6~7年で出所することになる。6~7年、刑務所で臭い飯を食えば、出所後に数十億円を手にすることができる。その時、斎藤は52~3歳だ。結局、「騙したほうが勝ち」という結末になりそうだ。これが映画なら、「黒幕はリーマンが経営破綻することを知っていたニューヨークの経営幹部」という筋書きだろうか。