リーマン・ブラザーズ破綻と「ドブ浚い」

15日、16日の主要株価指数
FT100    5203.80 - 212.90(- 3.93%)
DJIA     10917.51 - 504.48(- 4.42%)
NASDAQ   2179.91 - 81.36(- 3.60%)
S&P500    1193.53 - 58.17(- 4.65%)
TOPIX     1117.57 - 59.63(- 5.07%)
NIKKEI     11609.72 - 605.04(- 4.95%)
JASDAQ    52.97 - 2.61(- 4.70%)
J-REIT     1177.84 - 88.41(- 6.98%)
SSEC      1986.64 - 93.04(- 4.47%)
SZSA     570.75 - 8.02(- 1.39%)
HSI     18300.61 -1052.29(- 5.44%)

意外というのも変だが、リーマン・ブラザーズの破綻後、パニック的な大暴落はなく「普通の暴落」で済んだようだ。欧米日の金融当局が、素早く短期市場に資金を供給して連鎖的な破綻に楔を打ったことも効果的だった。目の前の危機を放置して崩壊寸前に陥った日本相撲協会とは大違いの迅速、的確な対応だった。(当たり前だ)

リーマンの経営危機は昨年秋にすでに表面化しており、少なくとも今年二月には出資先、売却先を求めて世界中の投資家、金融機関に打診が始まっていた。当然、日本のメガバンクや大手証券にも声がかかった。先進国の中で最もサブプライムの傷が浅い日本の金融機関に助けを求めようとするのは自然だが、日本側の返事は、いずれも「門前払い」に近い形の拒絶だったと聞いている。リーマンというと、ウォールストリートの一級の投資銀行のように思われがちだが、金融の世界では「Second tier(二流)」という評価が定着している。ここ数年、不動産やローン関連の投資などで創業以来の最高益を稼ぎ出していたが、実態はバブルに乗っていただけだ。ことに、リーマンの東京ブランチの評価にいたっては、経営トップからアソシエイツにいたるまで、仕事っぷりは「三流」と言わざるを得ない。ライブドアのMSCB発行に伴う空売りや、丸紅の名前を騙った医療機器の架空取引での巨額損失など、どれをとっても「プロフェッショナル」の仕事とは言えないお粗末なものばかりだ。日本のメガバンクや農林中金クラスなら、リーマンの実態が「狂牛病に冒された脂身ばかりの巨大な牛肉」に過ぎないことは、誰もが知っていることである。丸ごと買収することに何の旨みもない。(ここ数週間、三菱UFJや野村證券などが買収候補として名前が挙がったが、いずれも「偽情報」である。M&Aの交渉中に意図的な情報リークで相手に揺さぶりをかけるのは常套手段だ)

七月以降、韓国の政府系金融機関の韓国産業銀行がデューディリジェンスをスタートしていた。むろん韓国の金融当局も愚かではないので、途中で交渉を中断させるなどの揺さぶりをかけた。韓国側は「JPモルガンがベアスターンズを救済合併した際のようなFRB融資などの公的資金の支出」を求めた。しかしヘンリー・ポールソン財務長官は、「公的資金は一切考えない」という態度だった。アメリカの投資銀行が救済するなら300億ドルを融資するが、海外の銀行なら出さないという格好である。明らかなダブルスタンダードだが、見方を変えれば、「ベアスターンズ救済に公的資金を出したのは間違いだった」という反省に立っているのかも知れない。そもそも投資銀行は、一般個人顧客を相手にしているわけでも、多くの企業に短期資金を融資しているわけでもない。住宅金融公社やコマーシャルバンクに公的資金を注入するのとはワケが違う。機関投資家の金や自己資金で投資し、M&Aのフィーを稼ぎ出す投資銀行は、マーケットが反転して損失を蒙っても、個人や商業銀行よりも厳しく自己責任の原則を適用すべき存在だ。今後、起こりうるアメリカの商業銀行の経営危機に備えて公的資金の支出に慎重になるのは当然である。

現在の金融危機を日本のバブル崩壊に例えるなら、住専の処理が始まり、北海道拓殖銀行と山一證券が潰れたあたりだろう。かつての日本の金融機関は、債権放棄などで不良債権処理を先送りにしたため、一年ごとでしか崩壊の実態が明かされなかった。アメリカは四半期で公表しており、下落のスピードが四倍以上になっている。リーマンから吐き出された不動産関連の債券が叩き売られ、今後は不動産マーケットは〝壊滅的な収縮〟に向かうだろう。当然、その煽りを受けて、多くの投資銀行以外の金融機関の経営状態が悪化すると考えられる。すでに保険最大手のAIGや、第四位の銀行であるワコビアなどの名前が挙がっている。投資銀行では、メリルリンチはバンク・オブ・アメリカによる買収で一息ついたが、処理が難しいと言われるのがUBS(Union Bank of Switzerland)である。UBSは、その名の通り元を正せばスイスの金融機関で、プライベートバンクを主業務にしていたが、現在では米英日香港などを拠点にしたグローバルな投資銀行になっている。今更、スイス政府がUBSを救済する理由も必然性も見当たらない。プライベートバンク部門だけを切り離して売却することも考えられるが、日本の大企業との資金調達などのコミットでは、リーマンとは比較にならないほど深い関係を築いている。UBSの行く末が、全世界の資本市場に与える影響は、リーマンの比ではないだろう。

日本の政治家からは、馬鹿の一つ覚えのように「公的資金を入れろ」という声があがっている。公的資金による支援・救済が不要だとは思わないが、いたずらに資本注入しても、かつての佐々波委員会のように税金をドブに棄てる結果になるだけだ。日本の政治家や官僚の「旧長銀・日債銀を国有化し、りそな銀行を救済したことで不況から脱した」という説明は、よくできたフィクションか意図的な「嘘」に他ならない。公的資金による資本注入で不良債権処理が可能になったのは事実だが、銀行が吐き出す不良債権や潰れかけた企業を、「金儲け」にする手法を知っていた投資ファンドや投資銀行がいたからこそ、株式や不動産市場に投資マネーが戻ってきたのである。いったい、ドブに金を投げ込んだり、ドブに蓋をするのではなく、専門業者に金を払ってでもドブを浚わせなければ、いつまでもドブは悪臭と病原菌を放ち続けるのは、誰でも知っていることだ。

今、アメリカ政府が取り組むべきは、「アメリカへ世界中の投資家を呼び戻す」ことである。日本政府が、国有化した長銀・日債銀に瑕疵担保なる無意味な条件をつけて売却したのは愚かだったが、海外の投資家の目を日本市場に向かわせる契機となった。アメリカも同じことをすべきだ。例えば、一定規模のM&Aや投資について税務上の優遇措置をもうけたり、手続きを簡素化するなどである。これによって日本、中国、韓国、インド、アラブなどの金融機関、投資家をアメリカ市場に迎え入れなければならない。そして、日本の金融機関は、米系投資銀行やファンドから有能なバンカーを雇い入れ、「黒い目のハゲタカ」となってアメリカの資産を買い叩けばいいのだ。そこまでやらなければ、アメリカの不動産市場、資本市場、債券市場は、さらに大底を割るだろう。底が見えない転落は恐怖でしかない。恐怖の中に「チャンス」を見出せるような政策が不可欠である。かつてGSのCEOだったポールソンは、不況に陥った日本市場でどうやって儲けたのか。立場を変えて考えれば、おのずと答えは見えてくるはずだ。

しかし、ドブ浚いが終わった後に、再び「アメリカだけが儲かるアメリカ中心の金融秩序」に、グローバル経済が戻ることはないだろう。