「サブプライム不安」で金融機関に出回る「危ない企業リスト」 『週刊新潮』 Part2

リストには、「腎臓売れや」で知られる商工ローンの一社、あのSFCG(旧商工ファンド)の名前がある。中小企業金融のビジネスローンといえば聞こえはいいが、実態は経営者の個人保証で金を貸す商売だ。一昨年12月に成立した改正貸金業法で、大打撃を受けている。

「100万円以上の融資の上限金利を29%から15%に落とされた。ついに、無担保ローンから完全撤退し、現在では新規融資を一時的にストップしているようです」(大手証券幹部)

業界2位のNISグループは、すでに投資ファンドの傘下に入り、3位のシンキは、親会社の新生銀行が公的資金すら返済できない状態。3社揃ってリストに入るのも当然だろう。もっとも、サラ金業者は再編候補に入っていない。実はかつて業界最大手の武富士買収に動いた外資がいる。

「オーナーの武井保雄が盗聴事件で逮捕された後、ゴールドマン・サックスが武井一族に接近して、保有株の買収を狙っていました。持田昌典社長と、右腕の小野種紀マネージングディレクターの二人が、高井戸の武井一族の御殿『真正館』に招かれてカラオケをするほど信頼されていた」(米系投資銀行幹部)

しかし、グレーゾーン金利分の過払い利息返還訴訟で水泡と化す。

「サラ金に買い手が出てこないのは、過払い利息の返還が終わらないからです。しかも、過去に遡って請求できるという判決が出たので、買収後に資産が減る可能性がある。再編どころか、ゼロ円で買ってもマイナスになるリスクがある」(米系投資銀行幹部)

この言葉通り、昨年夏からGEグループが「レイク」を売却しようとしているが、一向に買い手がつかず半年以上も宙ぶらりんになっている。サラ金業界は、多重債務者問題の解決に積極的に取り組もうとせず、自殺した借り手の生命保険金から取り立てていたのだから、自業自得である。そして、貸出上限金利が20%になることが決まると、日本貸金業協会の会員数は、二年前の7025社から、今年4月末には3804社に激減した。

参考人として国会に呼ばれ、「貸金業のマーケットが崩壊する」と法改正に反対していた石井恒男元全国貸金業協会連合会会長(元富士信社長)も、3月27日に辞めている。石井元会長に話を聞こうとしたが、「もう廃業したんです。だから何も言いません。(国会に呼ばれた)当時のことも、思い出したくありませんよ・・・」と、答えるだけだった。同じく千葉県の高橋亘元協会長も会社を清算している。埼玉県の内田勇蔵元協会長は、こう語る。

「続けるも地獄、辞めるも地獄と言っていた通りになりました。そもそも、リスクの大きい人は金利が高くなるのは市場原理です。銀行からも大手の消費者金融からも借りられない人は、どうするんでしょうか。自治体が援助すると言ってますが、それは奇麗事です。素人が無担保融資をしたら、新銀行東京の二の舞で、納税者のお金を焦げ付かせるだけですよ」

サラ金から借りれなくなった人は闇金に行ったのか。千葉市の闇金業者の男性に聞いた。

「もう廃業しました。無許可業者は懲役ですからね。闇金といっても商売です。そもそも信用が低いお客さんに貸す仕事なのに、返済できずに警察に逃げ込まれたら塀の中じゃ、リスクが高くて貸せませんよ。昔の客から電話がありますけど、全部断ってます」

この業者の紹介で、多重債務に陥っていた男性に会った。30代後半で、妻子がいるが、高校卒業後に就職した印刷会社を辞めてから定職に就いてない。家族3人で月10万円以下での生活を余儀なくされている。闇金から借りずに、生活保護を受けるべきではないかと聞くと、

「生活保護は、ケアワーカーが自宅を訪問するから女房にバレちゃうんです。心配させたくない。それに贅沢品だといって携帯電話も持てなくなる。そこまで落ちないで、借金をしてでも自力で生活を立て直したいのです・・・」

と言う。貸金業法改正には「総量規制」が盛り込まれ、年収の三分の一以下しか借りられなくなる。失業したら最後、就職活動のスーツを買うための借金すらできない。

「金融庁の集計では、この一年で、貸金業者も貸出残高も減り、自己破産者も減りました。しかし、厚生労働省の『福祉行政報告例』によると、被生活保護者数は、二年前の134万人から、140万人に増えています。サラ金を締め付けても、格差社会の解消には繋がらないのです」(メガバンクのエコノミスト)


貸金業者が次々と廃業し、低所得者に融資が行き届かなくなる中、法改正で誰が得をしたのか。テレビからサラ金のCMが消えた一方、電車内には弁護士や司法書士の「債務整理」「借金の整理」を謳う中吊り広告がいたる所に貼られている。彼らは、債務者の代わりにサラ金業者と交渉し、返還された過払い利息の25~30%もの金を成功報酬として得ているのだ。全国クレジット・サラ金問題対策協議会の木村達也弁護士はこう答える。

「貸金業法の改正は格差社会の解消を目的としたものではなく、多重債務者の急増対策です。不当利得返還と債務の軽減は手間のかかる仕事です。報酬が返還金の25~30%というのは少し高い印象を持ちますが、小額事件ですから比較的割高になります。儲けすぎ批判は現場を知らない人達の意見と考えます」

サラ金が20%以上の利子を取るのはケシカランが、弁護士センセイは大変なお仕事だから、多重債務者から30%の金をピンハネしもて構わんという屁理屈は、筆者には生涯理解できそうにない。過払い利息の返還は、弁護士に頼まずに個人でも出来るのだ。

リストの最後にある人材派遣業三社は、民主党や共産党が改正に躍起になっている労働者派遣法の改正に直撃されそうだ。IT技術者専門の都内の派遣業者が言う。

「民主党は『日雇い派遣の全面禁止』を言い出していますが、労働現場の実態を知らない。そもそも企業は安い労働力を派遣に求めているのです。長期契約を得るには、一定の技能が必要になる。必然的に弱者に雇用のチャンスが回らなくなる。そもそも派遣業界を糾弾しても、正規社員が増えるわけがありません」

派遣業界は、偽装請負の温床となり、給与の天引きなどで業界大手が低所得者層を「喰いモノ」にしてきた以上、法規制は不可避だろう。しかし、低所得者はサラ金から金を借りることも、日雇い労働で現金を稼ぐこともできず、生活保護に頼らざるを得なく、大きな社会コストになる。

リストの会社は、リプラスとインテリジェンス、アーバンコーポレイションの三社を除いて、一切の回答を拒否した。リストから浮かび上がった業界の低迷を「官製不況」と批判する声は多い。しかし、そもそも建築基準法や貸金業法は、「国民の怒り」に後押しされて、政治家と官僚が改正した法律である。ワーキングプアや格差社会の問題解決を、政治家や企業に押し付け、今度は官僚に責任転嫁することが出来るだろうか。

支持率が最低レベルに落ち込んだ福田政権は、「消費者庁」を新設して、国民の歓心を買おうと衆愚政治にひた走っている。拙速な規制強化が生み落とした「衆愚不況」の原因は、実は自己責任で生きることを忘れた個人にあるのだ。

(初出:『週刊新潮』2008年5月15日号)

「サブプライム不安」で金融機関に出回る「危ない企業リスト」 『週刊新潮』 Part1


追記

本稿で取り上げた「リスト」に掲載された企業名は、「飛島建設、大末建設、真柄建設、新井組、アーバンコーポレイション、アゼル、クリード、パシフィックマネジメント、アルデプロ、リプラス、アセット・マネジャーズ・ホールディングス、SFCG、エスグラントコーポレーション、ゼファー、シンキ、NISグループ、フルキャスト、グッドウィルグループ、インテリジェンス」の19社である。週刊新潮の発行から約二ヶ月たって、7月5日に真柄建設、7月18日にゼファーが、それぞれ民事再生法の適用を申請した。このため、リストと会社名だけが一人歩きして、一部のメディアから「次に倒産する会社はどこか」などのコメントを求められたり、読者の方から「リストを売ってくれ」などのメールが来て困惑している。この記事は、危機を煽るのが目的ではない。原材料価格の上昇やサププライム危機による流動性の低下に加え、過剰な法規制、官僚の権限拡大、そして「個々人の責任転嫁」が「衆愚不況」を招くと指摘したものだ。