「サブプライム不安」で金融機関に出回る「危ない企業リスト」 『週刊新潮』 Part1


ここに一通の文書がある。「再編候補先」というタイトルで、上場企業ばかり19社をリストアップしたものだ。さらに、一社につき数10ページにわたる調査報告書が付随し、英文で過去の業績や将来の見通し、役員や大株主の志向まで細かく分析してある。リストを見たメガバンクの幹部が言う。

「昨年の暮頃から、外資系出身のM&A仲介業者が、『ここと資本提携をしませんか』という提案を持ち歩いていた。リストの会社は、この一年間で株価が急落した企業ばかりです。しかも、ほとんどの会社には既に外資系投資銀行が株主として顔を出している。近い将来、M&A絡みの標的になる企業でしょう」

しかし、スティールパートナーズや村上ファンドのような、敵対的買収で株価を吊り上げるターゲット企業ではない。

「日本では敵対的買収は馴染まない。そこで、サブプライム危機で先進国で最も株価が下落した日本企業に、戦略的な資本政策を提案して、M&Aやファイナンスでディールを狙う。リストには、有力な再編候補が記載されている」(M&Aコンサルタント会社代表)

つまり、〝外資が狙う危ない企業リスト〟ということになる。リストには、不動産や建設業者を中心に、介護報酬の不正請求が社会問題化したコムスンの親会社だったグッドウィル・グループ、違法派遣で業務停止処分となったフルキャストなども含まれている。なぜ、彼らが標的になったのか。狙われた企業リストの背景を追うと、日本を覆い尽くそうとしている「衆愚不況」の実態が浮かび上がってくる。

リストに名前が挙がった企業で圧倒的に多いのは、アセットマネジメント(資産運用)やリート(不動産投資信託)、マンション開発など、9社の不動産関連企業である。不動産業界といえば、外資系投資ファンドが巨額マネーで都心の物件を買い漁り、「銀座の坪単価が2億円を超えた」「高級タワーマンションに申込者が殺到」などというニュースが飛び交うほど活況を呈していたはずだ。一体、何が起きているのか。

「一昨年、都心の不動産が急上昇してから、金融庁は『担保物権に瑕疵はないか』と、不動産融資への指導を強化していた。今では、個人向けの住宅ローンにまで『返済計画が現実的か』と口を挟む始末です。加熱した不動産投機や、住宅ローン破産などを抑えたいのでしょうが、この結果、急速に不動産取引が減少してしまった」(メガバンクの審査担当者)

オフィスビルやマンションなどに投資するリートの指数は、昨年5月を頂点に、今年三月には半値以下に暴落している。好調な業績にも拘らず、株価が2年前の5分の1以下に低迷しているリプラスの姜裕文社長は、「明確に官製不況だ」と指摘する。

「リートは、外人投資家と投資信託の買いで支えられていました。ところが、サブプラ危機の広がりと金融商品取引法(金商法)の導入が、たまたま同時期だったので、リート指数が下落した。また、ファンドを連結対象にする金融庁の指針のため、単に不動産を売買する会社とアセットマネジメント会社が、個人投資家には同じに見えてしまい、株価が下がったのだと思います」

金商法では、金融商品の販売時に事細かにリスクを説明する義務がある。九月末の施行後、投信の販売は半分以下に落ち込んだ。そして、この下落に目を付けて「外資系のアセットマネジメント会社が安値で買占めている」(米系投資銀行幹部)という。

「実際、我々の元に再編の提案が来ていますし、こちらからも提案しています。もっとも、税務上のリスクがあるのでリート同士の合併は難しい。そこで水面下では、会社の資産をファンドの形態で再編する動きが出ています。半年後の不動産業界は、資産を再編した会社と、破綻する会社に峻別されるのではないでしょうか」(姜社長)

一方、全く別の理由で「崩壊寸前」に陥っているのがマンション業界だ。

2月22日、横浜市の中堅デベロッパー「アジャクス」が、約130億円の負債を抱えて自己破産を申請した。平成12年の設立以来、昨年3月期まで七期連続増収増益で、株式公開目前の倒産だった。倒産の背後には、〝姉歯事件〟をキッカケに改正された「建築基準法」があった。都内のマンション開発会社社長が言う。

「耐震偽装の防止でチェック体制を強化したため、大手ゼネコンでも建築確認が下りるまで、これまでの三週間程度から二ヶ月近くかかるようなった。この程度の期間延長なら大手は耐えられますが、建築予定地の土地を担保に建設費を賄っている中規模業者は資金計画が狂ってしまう」

しかも、昨年六月の法改正前には大混乱が発生していた。「着工済みの物件は建築確認を再申請する必要がない」という抜け穴を利用して、駆け込みで建設用地に「杭」を数本打ち込んで誤魔化す業者が続出し、市場から鉄筋の杭が消えるほどだった。アジャクスの甲州浩一元社長によると、6月に申請したマンションの建築許可が下りたのが、半年後の12月だったという。

「我々は、販売済みマンションの全塔を複数の検査会社に調べてもらい、国交省がランダムに選んだ物件でも構造計算をやり直して全てパスしました。もちろん、駆け込みの杭打ちもしていません。ところが姉歯事件後、自治体は建築許可に及び腰になっていたのです」

そして、建築許可を待つ半年間で、鉄骨などの資材価格が急騰して、経営に追い討ちをかけた。

「以前から国交省の方は『早く上場したほうがいい』と言ってました。マンションブームで中小業者が増えましたが、資金繰りや信用を考えると、上場しないと生き残れません。結局、株式公開のために、値下がりした地方の物件を処分して決算を悪く出来なかったのです」(甲州元社長)

こうして、昨年3月末に売上98億円で上場目前だったアジャクスは、一年足らずで倒産した。甲州元社長は、「私の経営判断ミス」と言うが、今年に入って中堅デベロッパーの負債50億円を超える大型倒産は、タカスギホーム(大阪)、グローバル・ファンデックス(東京)、木の城たいせつ(北海道)、東洋ホーム(神奈川)、第一住創(埼玉)など、全国で続出している。

「改正建基法は、建築許可を遅らすだけの『悪法』と批判されていましたが、その煽りで淘汰されるのは、せいぜいヒューザー規模のデベロッパーだと思っていた。ところが、アジャクスが百億円を超える負債で倒産したことで、『次は上場企業』と言われ始めています。マンションデベロッパーは、スポンサーも見つからず、再編や再生は難しいでしょう」(大手証券会社アナリスト)

二年前、証人喚問までする大騒動になった耐震偽装事件の余波が、ついに株式市場にまで及ぼうとしている。

(初出:『週刊新潮』2008年5月15日号)

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