防衛庁「UX次期多用途支援機疑惑に怪しげな男の影」『週刊朝日』vol.2

野中に一蹴されて、UXの機種選定は宙に浮いてしまったようだ。防衛庁は、八月三十一日の来年度予算の概算要求で、「UXを二機、七十二億円で購入する」とした以外、機種については一言も触れず、九月中旬に開かれる関係四閣僚協議の席上での機種決定に望みをつないだ。しかし、それもフランスのバラデュール首相から村山総理に「機種選定に開かれた競争」を求める親書が送られて、またしても機種の決定は先送りになった。ある軍事評論家が言う。

「大倉商事を通じたガルフ購入の図式を整えたのは新生党。竹下派が分裂して持ち出された防衛利権を、政権を取り戻した自民党が黙って見過ごすわけがない」(軍事評論家)

UX商戦には、新生党や防衛庁の屋台骨を揺るがしかねない数々の疑惑が囁かれてきた。今から三年も前に、ガルフを輸入する大倉商事と、ファルコンの整備会社という異例の組合せに、防衛庁の航空幕僚幹部が積極的に関与したといわれるのが一つ。二つ目は、大倉商事の子会社から新生党の国防族議員に多額の顧問料が支払われていたという問題である。そして疑惑の鍵を握るのが、ジョン・カーボーという米国人ロビイストである。。昨年、本誌が指摘した「AWACS疑惑」でも、やはりこの男が介在する。

AWACS導入は、一九九〇年暮れに中期防衛力整備計画に盛り込まれたが、ボーイング社が当初の見積り額の倍以上もの「一機七百億円」という価格を提示してきたために、商談がこじれ始めた。「頓挫しかかったAWACS導入を『一機五七十億円』という条件でまとめる地ならしをしたのが、九二年六月の金丸、小沢の訪米だと言われてます」(防衛産業関係者)

この年の暮れに二機分の予算が決定し、さらに翌年の旧連立政権下で、当初の目論見通り、もう二機分の予算が成立したのだ。防衛庁長官だった中西啓介氏が、ジョン・カーボーと会食したのは、残りの二機の予算を決定する二カ月前のことだった。いったいジョン・カーボーとは何者なのか。

「海外の航空機会社が、日本の政治家や防衛庁に航空機を売り込もうにも人脈がないので会うことすら出来ない。そこで、代理人として交渉にあたるのがロビイストです。ロビイストにはメーカーや商社がコンサルタント料を支払うことになります」(航空評論家・青木謙知)

ジョン・カーボーの肩書は、弁護士、政治コンサルタント。共和党員で、ニクソン、レーガンの政権移行委員会メンバーとしてアメリカ政界の中枢で活動した経歴も持っている。

「カーボーは、アメリカの複数の防衛関連企業のコンサルタントもしています。FSX(次期支援戦闘機)の日米共同開発からAWACSの売り込みと価格交渉、そしてUX商戦では特定機種のPRに動いていたと見られています」(前出・防衛産業関係者)

ところが野中発言で、水面下で進行していた日米航空機商戦は一転して混迷した。いま、カーボーが窮地に立たされているという。

「UXが暗礁に乗り上げて、彼が推したガルフが微妙になった。そこで急浮上してきたのがファルコンなんです。というのも、ファルコンのエンジンはクリントン大統領のアーカンソー州で製造されているからなんです。ところがカーボウは共和党系だから、民主党のクリントンと利害が反する。一方の頼りだった新生党まで野党になってしまったので、下手をするとAWACSまで白紙撤回されかねない状況です」(商社の航空機担当者)

政権交代を引き金に、航空機商戦の裏側は、どこまで暴き出されるのか。

(初出:『週刊朝日』1994年10月7日号)

防衛庁「UX次期多用途支援機疑惑に怪しげな男の影」『週刊朝日』vol.1


追記:

94年に週刊朝日でUXやAWACS選定疑惑を報じた頃のターゲットは「日本戦略研究センター(日戦研)」だった。日戦研は、1980年に金丸信が作った防衛庁OBのシンクタンクだが、次第に「防衛利権の窓口」と化していた。そのメンバーは掲載した文書にある通り、小沢一郎、永野茂門、前田武志、松田岩夫、村井仁、田村秀昭といった国会議員に加え、多数の防衛庁OBが名前を連ねていた。防衛省汚職事件に絡む脱税容疑で東京地検特捜部に逮捕された社団法人「日米平和・文化交流協会」の専務理事、秋山直紀は、この日戦研の存在を強く批判していた人物だった。

当時の疑惑報道の結果、日戦研が消滅した。しかし、その後に防衛利権に深く食い込んだのが日戦研の会員の一社だった「山田洋行」である。山田洋行についても、当時はもちろん、山口敏夫(元衆議院議員)のファミリー企業のゴルフ場開発疑惑など、何度も取材した。今回の事件は、山田洋行の内紛をキッカケに明らかになったが、山田が消えれば別の企業や人物が防衛利権に食い込んでいくだけだろう。