防衛庁「UX次期多用途支援機疑惑に怪しげな男の影」『週刊朝日』vol.1


「新生党が牛耳っている防衛利権を、自民党が突き崩そうとしている」

いま、防衛庁はもとより、永田町では、この噂でもちきりだ。引き金は八月十二日に行われた閣僚懇談会での野中広務自治相の発言だった。この日、航空自衛隊が中期防衛力整備計画の中で購入を決めていたUX(次期多用途支援機。司令官の移動や連絡、訓練支援などに使われる))の予算と具体的な機種決定が、閣僚間で承認されることになっていた。ところが野中氏が、「疑惑あり」として待ったをかけて、機種選定が暗礁に乗り上げてしまったのだ。

「UXは、最初からどの機種を購入するか決まっていたという噂がある。国会でも問題になったぐらいだから、第三者機関を設置するなどして、公正ににやるべきだ」

現職閣僚として異例の問題提起である。一回の購入単価だけで、数十億円を軽く超える買い物をする官庁は、防衛庁を除いて存在しない。この莫大な「防衛利権」を牛耳るといわれる新生党に挑みかかった野中広務氏を直撃した。

◆  ◆

-導入するUXの機種が米国製ガルフストリームIVに決まりかけていたのに、なぜ突然クレームをつけたのか。

「八月十日に首相官邸で行われた閣僚懇談会での発言が異例といわれますが、財政が逼迫している以上、不透明な選定に苦言を呈するのは閣僚として当然のことです。それも、何も突然クレームをつけたわじゃない。昨年の国会でも、当時の中西啓介防衛庁長官が渡米したときに怪しげな人物と会合したことを指摘したのは、この私です」

-その人物とは、共和党に近い米国人ロビイストのジョン・カーボ氏か?

「私は会ったことはありませんが、そういう名前の方と聞いています。ジョン・カーボ氏は、米国製UXの売り込みに日本の商社や防衛庁幹部などと頻繁に会合していたといわれている。仮にも現職の防衛庁長官が、機種の選定過程にある昨年九月二十六日に、なぜ一部の利益を代表するような人物と食事をしなければならないのか。奇妙だと思うのは当然です」

-ガルフストリームに決まったのは、何か大きな疑惑があると?

「そこまではわからない。私が言いたいのは、なぜあの機種じゃないといかんのかという素朴な疑問です。私が発言したあと、防衛庁長官と防衛局がここに説明にきてガルフのよさを話したが、納得できなかった。身長にやるということですから、見守りたいですね。ただ、防衛庁では機種の選定をする以前から、特定の商社や整備会社から働きかけがあったとも報道されてる。最初に機種ありきだったのではないかとね。これじゃ、不透明極まりないじゃないですか。村山内閣が初めて決定する予算に、そんな不透明な要素を残すわけにはいかんでしょう」

-不透明な予算要求は、前政権の新生党が残したとも言われている。

「竹下派で夫婦喧嘩して、私は小渕派に残って、あっちが新生党を作ったわけだから、『新生党憎し』で動いていると言われるんでしょう。夫婦喧嘩の結果、残された子供(防衛庁)がいじめられているという筋合いの話ではないのです。まぁ、誰がとは言いませんが、北朝鮮の驚異をマスコミを通じて殊更に強調して、世論誘導をしたような印象は拭いきれない。何もかも決定済で、用意されたレールの上を村山政権までが走らされる筋合いはないのです」

-野中氏自身は、防衛庁との接点はないように思うが、どうやって情報収集しているのか。

「別に、とりたてて情報収集をしてるわけじゃない。ただ、クレーム発言をしてから、内部告発のようなものがたくさんきていることは事実です。もっとも、嫌がらせとしか思えない無言電話が日に何本もかかってくる始末なんですよ。桁はずれな金額が動く世界だけに、色んな連中がいるとは思いますが、自宅と言わず事務所と言わず、今でも無言電話が鳴り止みません。卑劣な行為です」

-UXの選定だけではなくAWACS(米国ボーイング社製の早期警戒管制機。一機五百七十億円で、来年度までに四機の購入が旧連立政権時代に決定済み)についても、見直しの必要があると考えていますか。

「決定過程がわかりにくい。必要ないという意見だって内部にもあります。AWACSは決定済みだから良しするつもりはありません。自民党幹部の一人も、『AWACSは、政治改革法案や国民福祉税問題で揺れている最中に、どんどん決まってしまった』と私に洩らしているぐらいです」

-UXの機種選定に新生党議員の関与を指摘する文書も出回っている。

「そういう話は聞いてはいますが、私から特定の議員のことを口に出すわけにはいきません。しかし、ロッキード事件やダグラス・グラマン疑惑など、アメリカからの航空機購入に絡んで、疑惑と騒がれるのは今回が初めてじゃない。政治改革を言うなら、国会の場で疑惑を追及するべきだと思いますし、再び過去の悪夢を繰り返すべきではありません」

(初出:『週刊朝日』1994年10月7日号)

防衛庁「UX次期多用途支援機疑惑に怪しげな男の影」『週刊朝日』vol.2