日債銀「破綻判定リスト」の衝撃 Part4 『文藝春秋』

再生委が、問題債権を無理矢理に「適資産」と判定せざるを得なかったのは、先の「奉加帳増資」に代表される、「先送り政策」が最大の元凶である。

九八年当時の経済状況を考えて甘い査定をしたのだから、単に「資産算定が甘い」という批判は当たらない。だが、金融再生委員会の「当時は止むを得なかった」という言い訳が、いつまで通用するのだろう。問題を先送りし、目をつぶって「危ない企業」の債権を新銀行に残したツケは必ず回ってくる。

その典型が、そごうの破綻である。

国有化当時の長銀の頭取、安斎隆が振り返る。

「そごうは、最初の債務者区分では要注意Aでした。これは、直近の決算が黒字だったからです。要注意Aであれば、自動的に適資産となります。ところが譲渡の時点では破綻懸念先となったのです。しかし、その段階から資産判定をやり直すと、譲渡は数ヶ月先になってしまいます。そこで貸倒れ引当金を積み増しして、譲渡されたわけです。私の考えでは、いずれそごうは破綻する運命だったと思います」

この時、そごうグループのために政府が積んだ引当金は、約一千億円。長銀全体では九千二十八億円に及ぶ。

日債銀への引当金は五千百三十七億円で、住専七社の処理に六千八百五十億円が投入されたことを思い起こせば、いかにこの「持参金」が巨額かがわかる。

しかし、買収先企業に与えられた「危険手当」は、この巨額の貸倒れ引当金だけではない。二次ロスを穴埋めするという理由で、売買契約書に盛り込まれたのが、「瑕疵担保条項」である。

「貸倒れ引当金というのは、債権の危険度に応じて用意しておく内部留保のようなものです。しかし、これを国が面倒を見た以上、瑕疵担保を設けるとダブルで(二重に)保証をしたことなります。しかも、債権の回収が済めば引当金はすべて新銀行の丸儲けになるのです。新生銀行や新日債銀がリスクを負わない銀行というのは、そういう意味です」(冒頭の都銀幹部)

この指摘どおり、瑕疵担保条項が契約に盛り込まれた経緯と、将来の影響にこそ、「再生委の最大の誤謬」がある。

瑕疵担保条項は、一部のテレビや新聞が伝えたような、「大企業を税金で救済する」「国民の負担が増大する」といった類のものではない。不良債権をRCCに送ると、RCCは債権額の三割でしか購入しないので、残りの七割を公的資金で穴埋めしなければならない。つまり、仮に一兆二千億円の日債銀の不良債権をRCC送りにすると、その時点で八千四百億円の公的資金の支出が確定することになる。

今回の瑕疵担保条項とは、譲渡から三年以内(日債銀は三年一ヶ月)に価値が二割以上目減りした場合、国に簿価で買い取りを要請できる特約である。従って、企業が立ち直れば支払う必要はない。

だが、リストに名前を挙げた企業が、果たして三年以内に業績を回復することが可能だろうか。融資額の多いノンバンクやゼネコンは、相次いで債権放棄を要請している。明らかに「第二、第三のそごう」といっても差し支えが無いほど、崖っ淵に立たされている企業もある。

こうした「危険な企業」を、資産判定の例外を作ってまで生き延びさせたのは仕方ないにしても、今度は再生委が、その生殺与奪の権限を新生銀行の株主であるニュー・LTCB・パートナーズ(NLP)やソフトバンク連合に与えてしまったことになるのだ。

「瑕疵担保条項の最大の問題点は、リスクがないばかりか『問題企業を三年以内に潰した方が得をする』という動機を新たな経営陣に与えてしまったことです。銀行にとって、融資をするのは簡単ですが、債権を回収するのは最も難しい仕事なんです。その努力を放棄した方が儲かるわけですから、政府が新銀行にモラルハザードを仕向けたのと同じです」(前出・都銀幹部)

相手側に有利な「瑕疵担保条項」が契約に盛り込まれた理由は、未だに明確ではない。再生委の関係者が証言する。

「銀行の譲渡では、二次ロスが出るのは避けられない。アメリカでは売り手と買い手が損失を折半する『ロスシェアリング』という方式が一般的です。例えば、一年目は一〇〇%を国が補償して、二年目以降は八〇%、六〇%と減らせば、譲渡先の経営努力を引き出すことが出きる。そして、リップルウッド自身もロスシェアリングを望んだのです」

(初出:『文藝春秋』2000年10月号)


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