笹川錬金術の「密約メモ」発見『週刊朝日』Part3

このメモの所有者を追ううちに、国会で「笹川疑惑」を追及している衆議院議員の楢崎弥之助氏にたどり着いた。楢崎氏は、メモを持っていることだけは認めた。だが、

「持っているが、コピーはもちろん、中身を見せるわけにもいかない。事前に公になると、証拠湮滅の可能性があるからな。これは吉松の汚職事件に関することで、陽平氏は絶対に逃げられないだろう」

そして、こうも語った。

「七日の予算委員会の分科会で、笹川陽平を参考人招致する予定だ。笹川問題では、今まで色々な脅しがあった。中途半端だと、逆にやられるかも知れない。僕は昔から客観的な事実で追及してきた。今度も、独自調査と具体的な資料でやるつもりだ」

こう言われると、余計にメモの中身が知りたくなる。メモの発見を諦めかけたころ、「笹川家に近い業界関係者」を名乗る人物から、「見せるだけなら構わない」という連絡が入った。都内にある事務所の一室。ここで、「極秘メモ」の存在と中身を知ることが出来た。文書は二種類あった。B5判のレポート用紙に走り書きのメモが二枚と、同じくB5一枚の正式文書である。

共通しているのは、いずれの文書にもS氏の名前が記されていること。そして文書が作成された時期が、ちょうどブルネイのプロジェクトが暗礁に乗り上げ、住友建設と返金交渉をしている真っ直中であった点も同じなのだ。さて、問題のメモの中身だが、残念ながら提供者との約束で、その詳細をここに記すことは出来ない。しかし、メモが持つ意味と、先の逮捕劇との重大な接点については説明する必要がある。メモの一方は、ブルネイ問題で住友側との折衝中に、S氏が示した支払い条件だと思われる。もう一方は、時期的に考えて、住友側への支払い金の捻出方法に関わるものと推測できる。

注目されるのは、その資金捻出に「天満開発」なる会社が重大な関与をしているということだ。天満開発の名前では分からなくても、この会社が後の「ナナトミ」だといえば、ピンと来る人も多いだろう。飛島建設の元経理部長の安田正幸氏が同僚七人とともに独立した、飛島建設の事実上の関連会社である。そのナナトミが、福島県の大規模リゾート開発で失敗。約三千億円もの負債を抱えて倒産し、巨額の債務保証をしていた飛島建設の屋台骨を揺るがしたほど関係は深い。

「警視庁の摘発で浮上した船舶振興会と飛島建設は、つまり、S氏や天満開発を媒介にして密接な繋がりを持っていたことが、この文書で明確になるわけです」(業界関係者)

付け加えるなら、このS氏は、ナナトミの安田氏の盟友だった仕手グループ光進の小谷光浩代表とも、株買占めを通じて強い関係があった。こう見てくると、ブルネイプロジェクト──笹川氏──S氏──小谷氏──安田氏──飛島建設が複雑に絡み合う構図が自ずから浮かび上る。この相関図の中で、住友へ支払われた金が捻出されたようなのだ。そして、我々にメモを示してくれた人物はいう。

「メモに『百億円の特命』とあります。これは当初、住友側に百億円の工事発注を申し出たという事じゃないでしょうか。ちょうど、ブルネイプロジェクトの損害分担で住友側と合意に達した頃、戸田建設単独受注の『ホテル海洋』計画がスタートするんです。つまり、住友への申し出が、戸田へ回ったとも考えられるのです」

この符合が何を意味するのか。そして、先にも触れた「戸田建設からの六億円のキックバック」は事実なのだろうか───。全ての謎を握っていると思われるS氏を直撃した。

「いや、私もいい年になってボケてしまって(住友建設と交渉したか)記憶にないんですよ。でも、ウラ金なんて事実は一切ありません。(国会で質問された時は)その時に考えますよ。今は、私の独断で答えるわけにはいかんのです。ご理解下さい」

(初出:『週刊朝日』1994年6月17日号)