船舶振興会幹部逮捕で次の標的は?『週刊朝日』


「これは単なる始まりに過ぎない。調べれば調べるほど、不透明なカネの実態が明らかになるでしょう。その時は、もっと上の人間が捜査の対象になるかも知れません」

五月二十七日午後二時過ぎ、東京都港区虎の門にある「日本船舶振興会」(笹川良一会長)へ警視庁二課の係員約五十人が家宅捜索に入るのを見た振興会関係者は、こうつぶやいた。

今回逮捕されたのは、日本船舶振興会の常勤嘱託(理事待遇)吉松昌彦前事務局長と、小畠克明飛島建設東京支店現場所長、さらに平山文男三橋設計事務所参事の三人。

逮捕容疑は、モーターボート競走法違反にあたる贈収賄で、小畠、平山の両容疑者が、一九九一年の船舶振興ビル改修工事受注の見返りに、クーラーや冷蔵庫、テレビ、電子レンジ、炊飯器などの百数十万円相当の電気製品を吉松容疑者の自宅へ贈ったというのだ。

数千万円の現金が知事や市長にバラまかれた一連のゼネコン汚職に比べたら、なんともセコイ事件である。それだけに、冒頭の「もっと上の人間」という言葉が現実味を帯びてくるのだ。

「吉松さんは確かに当時は事務局長ですから、工事発注などの事務手続きを統括していました。でも最終的な業者選定の決裁権を持っていたのは、会長や理事長です」(業界関係者)

船舶振興会の会長、理事長とは、笹川良一会長とその三男である笹川陽平理事長。つまり笹川ファミリーである。が、二人とも今回の事件の会見などには出てこなかった。

別の振興会関係者が、眉をひそめながら言う。

「陽平理事長は、九一年に振興会の内規を改定しているらしいのです。以前は、運輸省と自治省から天下ってきた常勤理事の二人が、事務局と理事長の間に入って、工事の発注や交付金の決定事項を調整していました。ところが、この二人の理事を外して、理事長と事務局長とを直結するシステムに変更してしまったんです。この直後から、不透明な動きが噂され始めたんです」

船舶振興会では、「あくまでも吉松個人の犯罪」として片付けたいところだろうが、この発言通りなら、これまで様々な疑惑か報じられてきた船舶振興会のシステムそのものに、メスが入ったことになる。

千葉興業大学を卒業後、新卒で日本船舶振興会に就職した吉松容疑者は、総務畑を中心に昇進し、五月中には理事に就任する予定だった。

「吉松さんは、お酒も飲めないぐらい真面目な人で、運輸省OBの田坂鋭一理事長時代には、反笹川ファミリーという姿勢だったんです。ところが、田坂さんが任期途中で亡くなると、一転して運輸省批判を始めるような男でした。弱い人ですから、誘惑に抗しきれなかったんでしょう」(振興会OB)

一方、吉松容疑者と20年来の付き合いという友人も、

「ヨっちゃん(吉松容疑者)が可哀想です。彼は、陽平さんの右腕であることは間違いないのですが、あまりの横暴ぶりに『辞表を出そうか』と思い悩んだ時期もあるぐらいなんです。彼に電気製品が送られたといっても、それは氷山の一角ににすぎないんじゃないでしょうか」

と言って、やり場のない怒りをぶちまけている。

もちろん電化製品だけとはいえ、収賄罪は立派な犯罪である。吉松容疑者の妻は、

「一応、(もらった)電気製品はいまも使っています。いまは頭が混乱して・・・」

と力なく答えるだけだった。

(初出:『週刊朝日』1994年6月10日号)