日債銀「破綻判定リスト」の衝撃 Part3 『文藝春秋』

こうして政治銘柄として生まれた日債銀は、再び政治の思惑の中で、破綻・国有化された。だが、ソフトバンク連合への譲渡によって、全ての矛盾が解消され、日本の金融システムが正常に機能すると言えるのだろうか。

一ヶ月の譲渡延期が決定した直後、再生委が作成したと思われる、ある内部資料が流出した。いわゆる「日債銀の資産判定リスト」である。実は、このリストを詳細に分析することで、日債銀売却の蔭に隠された、驚くべき事実を垣間見ることが出きる。

まず、このリストの真贋について再生委の意見を聞こう。

「様式からしまして、確かに資産判定資料らしきものに見えますけど、この判定資料が本物か、本物でないかについては何とも言いようがないですね。(資料について)報じられていることについては、私どもは否定も肯定もしていません。特に調査ということもやっていません」(再生委事務局・八田斎金融危機管理課長)

リストは、A3版の用紙七十四枚という膨大なものだ。そして、「取引先名」として二千二百三十社の企業や個人名がズラリと並ぶ。そこに記された表には、「12/16債務者区分(当初)」「12/16債務者区分(最終)」「判定欄」「総与信残高」「中核企業団体名」「備考」という項目がある。

一例を挙げよう。資料のトップの項目は「日本リース」。すでに経営破綻した長銀系のノンバンクだ。これを例にすると、債務者区分の当初は「破綻」、同じく最終も「破綻」、判定欄は「不適」、総与信残高は「6,524(百万円)」、中核企業団体名が「日本長期信用銀行」、備考が「会社更生(計画未定)」となっている。

この点、アナリストが解説する。

「債務者区分とは、再生委が企業の〝危険度〟を分類したものです。当初と最終に分かれていますが、おそらく平成十年末に日債銀が国有化された時点と、昨年末に買収先候補が決定した時点のものと思われます。総与信残高は、貸出残高と未収利息の合計です。判定欄に並ぶ『適』『不適』は、適なら新銀行に承継される債権で、不適ならRCC(整理回収機構)に送られることを意味します。備考は、適・不適の資産判定の理由でしょう」

ということは、「中核企業が長銀の日本リースは、危険度は破綻企業。会社更生法を申請して返済計画が未定なので、六十五億円の債権は、新銀行に行かずにRCC送りにする」と、読むことが出来る。

掲載した一覧表は、このリストの中で、債務者区分が「正常」でないにも関わらず、適資産と判定された企業を、与信残高の大きい順に上位百社をリストアップしたものである。

一見して分かるのは、ノンバンク、ゼネコンといった、常に「危ない企業」として取り上げられることの多い業種が、上位を占めていることだろう。

さて、ここで問題となるのが、債務者区分の意味である。金融再生委員会はこう説明している(平成十年十二月十五日の「金融再生委員会告示第二号」)。

この「告示」によると、再生委は個々の債権を、財務内容や業況によって、正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先の五段階に分類する。そして、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先の三つに分類された債権は、「原則として承継銀行が保有する資産として適当でない」とある。

さらに「要注意先」も、直近の決算で繰越損が出ずに元金と利息の返済が契約通りであれば「適」。直近の決算で債務超過なら「不適」となる。そして、繰越損が出たり、元利金支払いが遅延しても、債務超過でない企業は、二年以内に繰越損を解消することが可能であれば、「適」とする--こう定められている。

そしてリストにある「要注意」のA、B、Cとは、前段で触れた「繰越損が出ていない」→「要注意A」、「債務超過」→「要注意C」、「それ以外」→Bに当たる。

要注意C以下で適とされた債権は、総額一兆二千百五十四億円にも達する。もちろん、財務内容の分析だけに偏った債務者区分なので、リストの中には再建計画どおりに元利金の支払いをしている企業や返済を終えた企業(リクルートや信栄など)もある。しかし、少なくとも「告示」通りに解釈すれば、「要注意C以下は全てRCCに送られるべき債権」となる。

再生したはずの日債銀の総資産は約八兆二千億円。うち貸し出し資産は三兆二千億円だが、このうち、〝債務超過以下〟と判定された債権が三分の一強を閉める。広義の不良債権は二兆円を軽く超える。経営の素人が見ても、この銀行が再生などされていないことがはっきりと分かる。

「再生委が、融資先企業をRCCに送れば、その時点で『死刑宣告』を下したに等しいのです。RCCの仕事とは、回収オンリーです。しかもロスが出たら、公的資金で穴埋めされるため、あらゆる手段を講じて回収にあたります。そうなれば、他の金融機関も徹底的に回収に動く。RCC行きの時点で、事実上の倒産状態に陥るのです」(前出・アナリスト)

逆にいえば、適資産となったことで、これらの企業は倒産の危機から救済されたことになる。再生委が日債銀の資産判定を下したのは、昨年五月のことだ。。なぜ、これらの問題債権は救われたのか。

「昨年春時点で、そごうグループやハザマ、熊谷組、長谷工、フジタなどを一気に整理してしまえば、他の金融機関の不良債権処理能力を超える可能性が高かった。すなわち、大手都市銀行数行をはじめ、経営基盤の弱い信託銀行などが、二年連続で注入した公的資金による資本増強分を吐き出し、軒並み債務超過に陥ったでしょう。債務超過になれば、即国有化です。これだけの大銀行が破綻すれば、七十兆円の公的資金でも賄い切れたかどうか・・・」(前出・アナリスト)

九八年から九九年にかけての経済情勢は、ロシアのルーブル危機など、世界的な金融不安が続出。そこに日本長期信用銀行の経営危機が表面化し、「日本発の金融恐慌」が現実になりつつあった。

緊急措置として金融再生法を作り、米国のSECよりも厳しい不良債権の判定基準を設けたのも、「一気にカタを付ける」という政治的な判断からだった。しかし、平成十年十二月に決めた基準で資産判定を行うと、連鎖倒産を招くことは確実だった。再生委自らが、「金融恐慌」のスイッチを押すことになってしまう。

再生委の関係者が当時を振り返る。

「大企業を救おうとか、政治的な意図に左右されたということはなかった。ただし、これらの企業をRCCに送った時点で、どんな影響が出たかは、言葉にせずとも想像ができました。暗黙の了解というのがあったと思います・・・」

ここで再生委は、資産判定のルールに例外を設ける。「金融再生法に基づく資産判定基準の概要」によると、「債務者の特殊事情(特許や保証など)に基づき将来の収益や債務履行の確保を見込んでおり、これが合理的と認められる場合は、その事情を考慮」とある。

これが抜け穴となった。本来ならRCC送りとなる「要注意C」も、何らかの〝特殊事情〟を口実に救えるようになったわけだ。

(初出:『文藝春秋』2000年10月号)


日債銀「破綻判定リスト」の衝撃 Part1 『文藝春秋』
日債銀「破綻判定リスト」の衝撃 Part2 『文藝春秋』
日債銀「破綻判定リスト」の衝撃 Part4 『文藝春秋』
日債銀「破綻判定リスト」の衝撃 Part5 『文藝春秋』