金融庁のドン・五味廣文「異例の続投」の読み方 Part3 『Foresight』

ペイオフ解禁直後、竹中が金融庁に残した〝お目付け役〟の「金融問題タスクフォース」を解散させると、五味の〝暴走〟に歯止めをかけられる人間はいなくなった。昨年七月から今年六月にかけて発令した行政処分は、実に二百五十件。前年度の三倍近い数字に膨れ上がっている。

五味の戦略は巧妙だ。頻繁に長官室に新聞記者を招いて、日本酒を振舞って〝歓心〟を得る。そして、伊藤に変わって実力者の与謝野馨が金融相になると、「大臣への忠誠の儀式」が執り行われた。再び槍玉に挙げられたのは、日本郵政社長の西川である。

今年四月、金融庁は、融資先に「金利スワップ」という金融派生商品を販売したとして、三井住友に業務停止処分を下した。西川は国会で謝罪し、三井住友頭取時代の役員報酬の一部を返上させられた。三井住友の幹部が指摘する。

「なぜこのタイミングで、金利スワップ問題で業務停止命令なのか。この問題は、融資先から訴えられて、三年前から金融庁も知っていた。しかも、当時の金利スワップの責任者は、北山禎介頭取です。当時はお咎めなしで北山さんを頭取にしながら、今更、西川さんに謝罪させるのは、あまりにも意図的です」

竹中の手法を嫌悪している与謝野は、竹中の盟友である西川にも批判的である。「与謝野に媚を売るための業務停止」と考えると筋が通る。とすると、裁量行政を超えて、恣意行政に等しい処分ではないか。

金融庁の猛威はとどまる所を知らない。今年四月以降、アイフル、中央青山監査法人、損保ジャパン、三井住友海上火災保険を有無を言わせず業務停止命令に追い込んだ。こうした厳しい処分に、「裏」があると見る関係者は多い。

「中央青山の奥山章雄理事長は、金融問題タスクフォースの主要メンバーでした。格好のターゲットになっている保険会社は、金融庁が作った金融商品取引法(投資サービス法)の規制から保険商品の適用を外すようにロビー活動をした。金融庁に逆らった業界が狙い打ちにされているようだ」(大手証券幹部)

決算期に一切の業務を停止させられた業界最大手の中央青山は、多くの公認会計士が転職し、存亡すら危ぶまれている。

なぜ、こうまで権限を拡大しようとするのか。

五味は、「我々はピルグリム・ファーザーズ(巡礼者父祖)だ」と語り、英国からメイフラワー号で北米大陸に渡り、新天地を切り開いた清教徒になぞらえて、金融庁の職員を鼓舞してきた。こうして増え続けた金融庁の職員は、金監庁発足当時の三倍にあたる千二百人を超える。すでに環境省を凌駕する大所帯である。移民として金融庁に根を張ったピルグリム・ファーザーズが生き残るため、必死に〝飯の種〟を探しているように見える。

金融庁は、誰もが知っている当たり前の標語を使って、自らの正当性を訴えてきた。銀行検査で頻発したのは「ガバナンス」(企業統治)である。今、声高に叫んでいる標語は、「利用者保護」だ。

実は「利用者保護」の方針を打ち出したのは、長官就任が目されていた佐藤監督局長である。本来なら、金融庁は「佐藤長官」に生まれ変わるのが順当だったはずだ。

「佐藤さんは、名古屋大学の教授をしていただけに、仕事は出来るが融通が利かない。ことある毎に五味長官の部屋で行われる幹部の酒席にも顔を出さないほどの堅物です。正論を主張して与謝野さんとぶつかるようだと、来年の投資サービス法の施行や、貸金業規正法、公認会計士法案の改正に支障が出かねない」(金融庁関係者)

巨大組織となった金融庁という軍隊を平時の日本に軟着陸させるのは、不良債権処理以上の大仕事だ。硬軟を使い分け、メディアの批判や政治介入を巧みにかい潜ることは、稀な政治能力を持つ五味をのぞいて、出来ない芸当である。

三年目の五味金融庁が取り組むべき課題は、貸金業規正法や公認会計士法などの改正、さらに保険業界やリート(不動産投資信託)の検査の続行など数多い。また、りそな銀行や足利銀行などの〝五味の禍根〟となっている金融機関からも公的資金を回収しなければならない。しかし、これらは、五味の退任で続行不可能になる案件ではない。

五味が異例の留任を決断した最大の理由は、「金融庁の最後の地盤固め」ではないのか。

来年八月までに施行される投資サービス法は、金融庁の権限をあらゆる金融サービス、金融商品へと無限に広げることができる。イナゴのように増殖し続ける検査官が食い尽くせないほどの〝餌〟が、マーケット中に生い茂っている。

金融庁の権限を磐石にした後、満を持して「金融庁の族議員一期生」として、華々しく永田町に乗り込む--〝政治家・五味〟の将来像が、ハッキリと見えてくる。


初出:Foresignt 2006年9月号

金融庁のドン・五味廣文「異例の続投」の読み方 Part1『Foresight』
金融庁のドン・五味廣文「異例の続投」の読み方 Part2『Foresight』
金融庁のドン・五味廣文「異例の続投」の読み方 Part3『Foresight』