金融庁のドン・五味廣文「異例の続投」の読み方 Part2 『Foresight』

五味が反転攻勢を仕掛けるのは、平成十四年に監督局長に就任してからだ。長官の最有力候補だった原口恒和総務企画局長が、柳沢金融相と対立して更迭。棚ボタ式に長官に就任した高木祥吉は、「事務処理能力は高いが単なるイエスマン」と言われ、五味は〝事実上の事務方ナンバーワン〟になる。

さらに小泉首相が柳沢を更迭し、竹中平蔵が金融相に就くと、金融庁は「銀行を検査で追い込む」という手法を駆使し始める。

手始めに、みずほフィナンシャルグループを二千百億円の黒字予想から二兆七千億円の赤字に転落させた。みずほは、一兆円の巨額増資を強いられた。さらに、UFJ銀行に対しては異例の八カ月間の長期検査で不良債権を炙り出す。検査の現場を仕切ったのは、目黒謙一統括検査官。目黒が、UFJに強制捜査並の検査が出来たのは、五味監督局長-佐藤検査局長のラインによる後ろ盾があったからである。

そして、平成十六年七月、五味は金融庁長官に就任し、名実ともに金融行政のトップに立つ。しかし、「国家権力」を背景に闇雲に権限を拡大するほど愚かではなかった。金監庁時代から政治に翻弄され続けた五味は、政治家を利用する手腕を身につけていた。

金融庁には、官僚の防波堤になる族議員が存在しない。それ故、持ち回りで就任する「金融担当大臣」の意向に影響されやすい。しかし五味は、竹中、伊藤達也、与謝野馨の三人の大臣に仕えながら、政治家と対立することなく、組織を膨張させることに成功してきた。

シティバンクの在日支店は、知識の乏しい客にリスクの高い金融商品を売り付ける一方、闇組織の資金洗浄に手を染めるなど、「犯罪銀行」となっていた。銀行免許取り消しが当然と思われたが、「プライベートバンク部門の撤退」だけで、存続を認めた。「外資系金融機関と親しい竹中金融相の意向を忖度した」と言われている。

もっとも、現場の検査官はこの処分に納得しなかったようだ。シティのプライベートバンクの元幹部が英国系銀行の在日支店に転職すると、検査官が「彼を雇ったんですか」と〝圧力〟をかけ、驚いた英国系銀行は、数週間でシティ元幹部の首を切るという一幕があった。

そして、竹中が金融庁を去り、軽量級の伊藤が後釜に座った途端、五味は今までの鬱憤を晴らすように強権を発動する。

第一弾として、UFJ銀行を東京地検に銀行法違反(検査忌避)で刑事告発する。東京地検特捜部は、UFJ銀行の副頭取以下三人の首脳を逮捕・起訴した。(昨年四月に東京地裁で有罪判決)しかし、この時点で、すでにUFJは、経営健全化計画の未達成で寺西庄司頭取が引責辞任し、三菱東京FGとの統合計画を発表していた。

「金融庁は、監督官庁としての責任と同時に、行政処分、検査、法律の立案の権限を持っている。トップが経営責任をとり、経営統合を決断したにも関わらず、さらに刑事告発という武器まで使うのは横暴すぎる。金融庁の〝恐怖政治〟だ」(メガバンクの企画担当幹部)

さらに、強権発動の第二段として、竹中と〝昵懇〟だった三井住友銀行とゴールドマン・サックスの検査に着手し、赤字に転落したSMBCの西川善文は、頭取の地位を追われる結果になった。

もちろん、五味が銀行界に〝恐慌〟を起こすほどの検査をしたのは、ペイオフ解禁までに主要行の不良債権比率を半減する国策のためである。数字だけを見れば、不良債権比率は、目標値を一ポイント以上も下回る二・九%になった。五味金融庁の成果として評価するべきだろう。

ところが、金融危機が去り「平時」に戻っても、金融庁は戦線を縮小しなかった。


初出:Foresignt 2006年9月号

金融庁のドン・五味廣文「異例の続投」の読み方 Part1『Foresight』
金融庁のドン・五味廣文「異例の続投」の読み方 Part2『Foresight』
金融庁のドン・五味廣文「異例の続投」の読み方 Part3『Foresight』