「セレブ妻」バラバラ殺人事件について

4月28日、東京地裁で、夫の殺害と死体損壊・遺棄罪で起訴された三橋歌織の判決が言い渡される。2007年1月に発覚した事件は、歌織が、モルガン・スタンレー・プロパティーズ・ジャパン社員の夫・祐輔を殺害し、死体を切断して捨てたというもの。裁判では歌織の責任能力の有無が争点になっているようだ。殺人事件そのものにはまったく興味がないが、この事件を巡る報道には、少々、疑問を抱いている。

実は、この事件の発覚当時、週刊誌やワイドショーの記者などが、私に取材にきていた。週刊誌でモルガン・スタンレーを記事にしていた人間がいなかったことと、モルスタの広報が何らの対応もしなかったためだ。問い合わせがあった記者には、次のように答えていた。

「モルガン・スタンレー・プロパティーズ(MSP)は投資銀行でもアセットマネジメント会社でもない。モルスタや傘下の不動産ファンド『MSREF(メズレフ)』が保有する不動産の管理・運営をしている会社である。取り扱い物件の数と規模、社員数などを考えれば、日本有数のプロパティマネジメント会社であり、能力・実績もトップクラスだ」

「三橋は外資系の一流バンカーではない。不動産会社の社員であり、年収は1000万円を超えないかも知れない。MSPは不動産会社であって投資会社ではない。従って、三橋が億単位のボーナスをもらっていた可能性はゼロである。三橋は不動産業者であり、バンカーですらない。モルスタのような米系投資銀行は、地位や年収、人付き合いまで、仕事の成果よって差別的な待遇をしている。そのヒラエラルキーの中では、三橋は最下層に近い従業員である。モルスタは社員に家賃の補助をしている。20万円のマンションでも、自腹で支払っていたのは10万円程度だ。年収が一千万円以下だから、実質10万円のマンションにしか住めないのだ」

「ホステスなどに『俺の年収は一億五千万円』などと嘘をついたのは、逆に年収が少ないことのコンプレックスだろう。外資系の幹部バンカーを何人も知っているが、他人に自分の金銭哲学や年収を自慢げに喋る人間など見たことがない。ことさらに自慢したり、会話に英語を交えてイキがっているのは、下級のヴァイスプレジデント(日本企業では課長クラス)か、アソシエイツ(平社員)である。本当に儲けている人間は、ホステスに自慢話などしない」

と、ここまで説明しても、ほとんどの媒体が「セレブ妻の犯罪」という報道になってしまった。「セレブ」という和製英語もどうかと思うが、あえて「勝ち組の犯罪」にしたがる報道姿勢にいたっては如何ともしがたい。「勝ち組・負け組」という議論でいけば、そもそも三橋は、米系投資銀行という異質な世界では、明らかな「負け組」だったのだ。