国際協力銀行「天下り40社リスト」Part1 『週刊文春』


ここに一通の内部文書がある。政府系金融機関としてODA(政府開発援助)や円借款、輸出入金融などを行う特殊法人「国際協力銀行」(以下、JBIC)の元職員が、現在、勤めている企業名と肩書きを記したものだ。

OBたちの勤務先は、大手商社や大学教員など様々だが、その中に明らかに異質な企業群がある。「○×投資」「△□ファイナンス」という聞きなれない投資会社の役員や監査役に、なぜか数十名のOBが再就任しているのだ。

この投資会社の正体について、JBICの関係者が解説する。

「これらの投資会社の多くは、海外の石油や天然ガスなどのエネルギー開発プロジェクトに、JBICが融資する際に設立されるSPC(特別目的会社)です。表向きは融資の仲介、プロジェクトのモニタリング(監視)ですが、実際は、JBICを退職した幹部の天下り専用会社も同然になっているのです」

さらに別のJBIC関係者が続ける。

「JBICが資源融資をする際、融資額が巨額になると商社が株主になってSPCを設立するのが慣例化している。このSPC経由で金利を上乗せして海外のプロジェクトに融資するのです。『経験豊富なJBICのOBがプロジェクトの運営・管理をする』と言えば聞こえがいいですが、彼らの実際の仕事は、現地に職員が出張したり、政治家や官僚が視察に行く際のアテンド(引率)ぐらい」

つまり、「迂回融資で金利を上乗せして、天下りOBの給料を賄っている」のが実態だという。

JBICの投資・融資の原資は、郵貯や簡保などの財政投融資と一般会計、つまり国民の税金である。海外の資源開発に、血税を低金利で長期融資をしているのは、日本が安定的にエネルギーを確保するための「国策」に他ならない。しかし「国益」を隠れ蓑にして、一部の特権階級だけが私腹を肥やすなど、許されるわけがない。

現在、首相の諮問機関「経済財政諮問会議」では、政府系金融機関の統廃合でJBICの扱いを巡り、竹中平蔵総務相と谷垣禎一財務相が対立している。

「八つの政府系金融機関を一機関に再編し、ODA業務以外は民営化か廃止」と主張する竹中総務相に対し、谷垣財務相は、「資源確保など国益上不可欠な金融も政府系として残す」と、財務官僚に洗脳されたのか、「改革派」から「温存派」に転向した。

一方、JBIC内部からは、資源金融や国際金融を「不適切」と批判し、JBICの解体を求める「内部告発文書」が政府に提出されるなど、小泉純一郎首相が「改革の総仕上げ」と位置づける政府系金融機関の統廃合の行方が、混沌とし始めている。

「JBICは、橋本行革で日本輸出入銀行と海外経済協力基金が統合してスタートしましたが、互いに『銀行屋』『援助バカ』と、陰口を叩きながら、人事交流もなく従来の部署のまま働き続けてきた。内部告発は、旧基金の職員の仕業だと言われていますが、これほど対立が激化しているとは思わなかった」(大手商社関係者)

「天下りリスト」と氏名の実名公開で、「国益のための融資」と嘯くJBIC職員の正体と、政府が議論している整形金融機関の改革案がいかに生温く、改革の「総仕上げ」どころか「棚上げ」に過ぎないことが明らかになるだろう。

   ■    ■

「天下りリスト」は、内部資料に元に、天下り先企業の商業登記簿で役員の在籍を確認し、国立印刷局発行の『職員録』からJBIC(旧輸銀、旧基金)当時の肩書きを照会し、さらに企業への個別の聞き取り調査を行った上で作成した。それが、次頁の「天下り四十社リスト」である。(表には、「JBICからの投資、融資実績がある会社への天下り」として、アブダビ石油、伊藤忠石油開発、サウディ石油化学、サハリン石油ガス開発などのSPCではないことが明白な会社も含まれる)

そして、企業への聞き取り調査を通じて判明したのは、およそ「国策」として国費が投じられた会社とは思えない天下り会社の実態だった。

天下り企業に「会社の概要」「JBICからの出資額、融資額」「天下り社員の有無、肩書き、待遇」「迂回融資という批判をどう考えるか」など十項目ほどの質問書を用意し、ファックスで取材の依頼をしようとした。ところが、電話の向こうからは、信じがたい返事が戻ってきた。

イー・ブイ・エム石油投資は、「こちらの電話番号はなぜお知りになったんですか?うちは(番号案内などに)一切載せてないはずです。えっ、住所もご存じなんですか?」と、戸惑いながら女性が応じる。

日本ウジミナスは、「そういうことに関して、お答えしないことになっておりますので、はい。お断りさせていただきます」と言い放ち電話を切る。唖然として、もう一度かけるが、「その件につきましては一切お断りします」と、再び電話を切られる。

マーリャガス投資も「そういったことに対して、お答えするつもりはありませんから」と電話切り、日本シンガポール投資は、天下りをした吉田氏と同姓の「ヨシダ」を名乗る男性が電話に出たが、「対応できる人がいないから」を何度も繰り返した挙句、やはり電話を切った。

「全員が忙しくて対応できない」(日本ペルー石油)「回答する責任は無いと思います」(カタール・サード・トレイン・ファイナンス)「全員が海外出張中で対応できない」(パイトン電力投資)「あなたにそんな権利があるんですか?取材権が?」(エスコンディーダ・ファイナンス)

こうした不毛なやり取りを延々と繰り返し、どうしてもファックスを受け取ろうとしない会社には、直接訪問して質問書を手渡さざるを得なかった。

天下り企業の多くは、なぜか竹橋にあるJBICを取り囲むように、九段から神田方面に数多く点在している。パイトン電力投資とブルースカイ投資は、同じフロアにあり、ミラーで装飾された受付はネットベンチャー企業のような華やかさである。カタール・エルエヌビー・インベストメントやカビウナス投資は、オフィスの壁面がオーク材で覆われて、外資系の投資銀行を思わせる。

しかし、大手町にオフィスを構える日本ウジミナスとシルクロード石油輸入の二社は、オフィスは地味だが、他の投資会社とは違い、多くの社員が働く姿を目にすることが出来た。

トーメン出身だというシルクロード石油の岡田文夫専務はこう言う。

「イランのようなカントリーリスクの高い国から資源を確保するには、官民一体のオールジャパンになる必要がある。動き出したオペレーションをモニターし、融資を回収するには専門のチームが必要であることも分かって欲しい」

また、JBIC出身の松本基弘副社長も、

「改革と言いますが、あまりにも議論を単純化した結果、必要なものまで排除するような流れには違和感を覚える」

という。こうした主張は正論だが、天下り企業の中には、明らかに「無駄」な会社が数多く存在しているのも事実である。

(初出:週刊文春 2005年12月1日号)

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