福井日銀総裁は何を恐れているのか Part2 『Foresight』


福井が公開した個人金融資産は、預貯金が一億八千六百万円、株式が三千四百万円、投資信託が三千五百万円、国債が一千万円というもの。妻と合わせて金融資産だけで三億五千万円になる。「庶民感覚」では桁外れの資産額だが、そもそも中央銀行の総裁は庶民ではないし、庶民感覚で金融政策にあたる必要も無い。年間三千六百万円の総裁としての報酬は、職責の重さを考えれば安すぎるぐらいだ。保有している有価証券は、商船三井、富士通、キッコーマン、新日鉄、三井不動産などの社外取締役や顧問を務めていた優良企業ばかり。

「若い人を応援していた」と明言したはずが、未公開のベンチャー企業などの株は皆無である。その一方、子供のいない福井夫妻が、預貯金だけで二億円以上も保有していることが目に付く。プロのエコノミストとして、この低金利時代に二億円もの資産を現金のまま眠らせているのは、滑稽なほど堅実である。福井が民間にいた当時、日銀は銀行保有株の買い取りをしていた。元日銀首脳なら、もっと株投資や国債の購入に積極的になるべきだ。福井に、リスクマネーを投資に回し、利殖をするという発想が希薄であることは明白だ。こう見ると、福井の金融資産の中の村上ファンドが、明らかに「異質」な投資であることが分かる。

「低金利時代に二億円を現金のまま持っている老夫婦」が、村上ファンドへ一千万円のリスクマネーを投じながら、「いくら儲かったか分からない」などということがあるだろうか。しかし、仮に「一千万円の投資がノーリスクだった」のなら、契約書を読む必要も無いし、運用状態を心配する必要もない・・。 契約書によると、福井は「第1回アクティビスト投資事業組合第36号」という個人ファンドから、オリックスの「アクティビスト投資事業組合」を通じて、村上ファンドのJASFに出資している。その当時に作成された村上ファンドの資料によると、JASFへの投資は「一口十億円」で、総額六百億円を目指していた。これについて、外資系投資ファンドの幹部がこう語る。

「六百億円のファンド組成を目標にしているのに、一千万円ていどの小額で孫ファンドを作った意図が分かりません。出資者が多ければ多いほど、ファンドの管理が煩雑になるだけだからです。機関投資家には一口十億円で募集しながら、一方でオリックスを通じて百分の一の金額で匿名の個人投資家を募集したのは、特別扱いの『VIP口座』だったからではないでしょうか」

今年二月、福井は村上ファンドの解約手続きをした。その理由を「阪神への投資などで運営方針が変わったため」と説明したが、事実とは思えない。すでに村上ファンドは、昨年のニッポン放送株の買収騒動で、短期的なアービトラージ(鞘取り)を狙う姿勢を明確にしていた。人知れず、処分をしようとしたの「検察の捜査」によって、ファンドの出資者と取引の詳細が明るみになることを恐れたからではないか。

ファンド解約と同時に、福井の利益が確定する。この時点で「総裁就任中に利殖行為をした」ことになる。敢えて危険を冒してまで、村上ファンドとの関係を断ち切ろうとしたのは、なぜか。利益はおろか、元本の一千万円まで「慈善団体に寄付する」のは、「庶民感覚」への配慮としても、あまりに過剰だ。「福井が元本の一千万円を出資した」とは、未だ証明されていない・・。

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本稿執筆時点で、日銀は七月十四日の政策決定会合で「ゼロ金利解除」に踏み切ると見られている。そして、世界の株価が不安定な中、日本の中央銀行総裁が「金銭スキャンダルで辞任」することを、政府や財界は恐れている。しかし、「内規に反していないから構わない」という理由で、福井が総裁の椅子に座り続けるなら、日本の中央銀行までもが、「法律に反しなければどんな金儲けをしても構わない」という、六本木ヒルズに生息する似非マキャベリストたちの愚劣な教義に毒されたことになる。

フランス駐在経験のある福井であれば、「ノブレス・オブリージュ」(身分の高い人間には、それに伴い大きな責務がある)という格言を知らないはずがない。日銀の権威、日本経済の信用を守るためには、村上ファンドとの全ての取引の詳細を明らかにし、五年の任期を待たずに引責辞任するのが、「日銀のプリンス」に残された、最後にして唯一の選択肢である。

(初出:Foresight 2006年8月号)

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