グッドウィル・グループ折口雅博の終焉



グッドウィルの折口雅博に初めて会ったのは2000年4月である。週刊誌に書いた光通信の記事について、広報担当者と二人で出版社に抗議にきたのだ。光通信の代理店「HITSHOP」がスカパーの契約をしていた「デジタルクラブ」(現クラビット)について、契約の際に明確な説明を怠り、消費者センターなどに苦情が殺到したという記事だが、その中に「グッドウィル・コミュニケーション」(GWC)のビジネスについても言及した。GWCは、デジタルクラブで契約したスカパーのアンテナ設置工事を、一件約1万2500円で元請けし約8000円で孫受けに発注していた。経営状態が悪化していた代理店が、丸投げするだけで利鞘を稼ぐGWCとの契約に疑問を抱いているという内容である。

ネットバブルの当時から、異例の経歴とともに折口の名前は知られていた。会う前は「型破りで豪快な男」と思い込み、わざわざ抗議に来る以上、怒鳴り声でもあげるのではないかと想像していた。第一印象は、少々気取っているものの礼儀正しいビジネスマンだった。しかし、彼が差し出した名刺は一風変わっていた。通常の二倍の大きさの名刺を二つ折りにしたもので、その名刺を両手で開きながら渡す。そこには、グッドウィルの関連会社の社名がズラズラと並んでいた。「これだけ多くの会社を傘下におさめている」というアッピールかも知れないが、名刺に必要以上の虚飾を施すのは、選挙前の政治家と三流の事件屋と相場が決まっている。あまり褒められたものではない。

当時の録音を聞き直した。

開口一番、エキセントリックにまくし立てたのは広報担当の女性である。「どれだけ大変な仕事か、やってみて下さい!何が分かるんですかっ!」その剣幕に、驚くより前に呆れた。株式を公開している企業の広報で、これほど感情的な人間を見たことは無い。GWCと光通信代理店の契約書を入手しており、事実関係は明確に裏付けが取れていた。記事の意図と趣旨を縷々説明すると、折口は大声をあげる女性広報をたしなめ、「ジャーナリズムの使命は理解しますが、我々も一所懸命努力していることをご理解ください」と言うだけで、反論はしなかった。

実は、折口自身はGWCのビジネスを明確に理解していなかった可能性が高い。というのは、光通信の重田康光と親しく同社の代理店から顧客管理などの契約をとっていたのは折口ではなく、グッドウィルの事実上の創業者である佐藤修だったからだ。GWCは、翌2001年6月にMBOによって独立し、現在は「マスターピース・グループ」として今秋の株式公開を目指している。介護ビジネスで事業を拡大したい折口と、人材ビジネスに特化したい佐藤とは、既に同床異夢だったと見られる。

この時、折口には別の「疑問」があった。2000年2月にグッドウィルの連結子会社になった化粧品販売とエステティックサロン経営の「クリーク」についてだ。クリークがコムスンに「介護美容」なるサービスを提供するという触れ込みだった。当時、得ていた情報は以下のようなものである。「クリークのエステサロンへの勧誘手法が国民生活センターなどで問題化している」「山口俊夫クリーク社長は裏社会との繋がりがあると言われている」「折口と山口は、芸能プロダクション経営のA氏を通じて知り合った。A氏は六本木に『J』『Q』など数件のクラブを経営しており、やはり裏社会との関係が指摘されている」・・・。こうした疑問も折口にぶつけたが、返ってきたのは木で鼻をくくったような答えだけだった。

「お年寄りにお化粧をすると、本当に綺麗な顔になるんです。やはり、いくつになっても女性なんですね」「私はずっと介護をやりたかったんです」「新聞記者さんに介護を体験していただいたら、涙を流して感動されていました」・・・。(クリークの山口は、翌2001年7月に暴力行為で暴力団幹部とともに警視庁捜査四課に逮捕された)

それから、何を聞いても「感動的なストーリー」に置き換えた答えしか戻ってこなかった。〝政策に翻弄されやすい公的介護がビジネスとして成立だろうか〟と聞くと、親指を突き立てて自分の鼻を指し「僕がやるんですよ!大丈夫です!」と言う。〝公益性の高い業態である以上、他の民間企業より厳しく評価せざるを得ない〟と言っても、「実は私は、『シンドラーのリスト』という映画が一番好きなんですね」と、酔って女性を口説くような口調である。新聞などに「折口のカリスマ性」という記述を見かけるが、彼のスタイルは、よく言えばホストであり、悪く言えば新興宗教の教祖のようだ。安っぽい感動や、情に訴えるのを好む。今、テレビで謝罪行脚をしている姿は、「悲劇のヒロイン(?)」となった自分に酔っているようにすら見える。

かつて、折口と同じタイプの人間に会ったことがある。タレントの羽賀研二だ。とにかく延々と喋るが、こちらの質問に正確に答えようとしない。相手と正対して議論をすることを避け、あわよくば自陣に引き入れようとする・・・。折口は、経営者というより〝夜の街の男〟や〝芸能人〟が似合っていた。型破りのベンチャー経営者ではなく、経営者としては「規格外」か「場違い」な男と表現するのが適切だろう。

「それみたことか。思っていた通りだ」今回の不正請求事件について、こう書いてしまえば楽である。折口は、再び介護ビジネスを手掛けることは不可能だろう。「データ装備費返還問題」「クリスタル買収問題」などの展開次第では、経営者としてのキャリアも終わる。組織的な不正請求であれば、詐欺罪での立件も考えられる。しかし一連の不正請求は、介護ビジネスが抱える大きな問題の中では、実は瑣末なこととも思える。介護業界は、数十年前から厚生労働省(旧労働省)の利権の巣窟であり、その実態は今日も何ら変わっていないからだ。